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 死を迎えた赤く果てた大地に、青黒い毒雨が景色を染めあげる……。


 『自由船団』が運用可能な唯一の展開戦力、船団長護衛隊ヴェイガスの駆る〈ヴィクトリア2〉二四機一個戦闘団と肩を並べて、各々に最後の防衛体制を敷く中で。


 コクピットの機械音声が戦雲急を告げる。



『――戦闘情報システム、オールグリーン。蓄電率一〇〇パーセント』

『――対空戦闘、用意』



 降りしきる死と化学の『毒雨』――それを糧とする複層発電装甲が、色褪せぬダークグレーの機体に藍色の電流を絶えず纏わせる〈ディサイシヴ・ギア〉改め……〈アルテェア〉には火薬兵器が存在しない。搭載のすべてがエネルギーおよび打突兵器。


 なぜなら、毒雨を浴びた複層発電装甲の化学反応でエネルギーが供給される限り『弾切れ』が存在しないから。武装が尽きないがために、戦いが終わらない限り戦場から退かない。


 〈アルテェア〉が動きを止めるとき。すなわち戦いがやむとき。

 だからこその「決戦兵騎ディサイシヴ・ギア」。



『――対空レーザー。照射開始』



 ユーリは無言で。

 割り当てられた戦域の目標を、黙々と処理する。



『侵攻目標(トラック)、二四から四八。全機撃墜を確認(ターゲット・キル)』

『更なる地上侵攻部隊、まっすぐ近づく』『一時方向。機影一六。距離三〇〇〇』


『――対近接戦闘、用意』

『――電磁障壁、出力上昇』



 電源が喪われないかぎり〈アルテェア〉は戦い続ける。


 そして機体の電源は喪われない。戦争が続くかぎり『毒雨』が負降り止まないからだ。

 加えて機体フレームは機械的限界を迎えない。限界を迎える前に殲滅が可能だからだ。


 敵機の群れが遠ければ焼き殺す。

 近づいても焼き殺し。組みつかれても圧し殺す。


 背部対空レーザーは違わず飛行目標を射抜く。集団で腰の引けた射撃戦を仕掛けてきても、超極高電圧の放電障壁アークライト・フィールドはものともしない。打撃兵装で直接的破壊を試みる機体には、脚部近接スパイクと両腕部パイルドライバーが青白い火花を散らし、貫く。


 今しがた、敵機体ギアの骸を積み上げたところで。



『――敵二次波の後衛部隊、急速に後退』


『――『自由船団』よりデータリンク』

『洋上より高速で接近する目標一二。爆撃機』『当該機……共和国軍機』



「ちっ」



 図ったかのような手ごたえの無さと、他国の新手の出現にユーリは舌打つ。


 やはり航空戦力か。

 ……前衛にあてがわれた敵機体も、無人自律操縦。囮として用立てるならそれで充分らしい。


 しかしこの新手の編隊。洋上低空迂回ルートを取ってきた。

 〈アルテェア〉には捉えきれないレーダーの死角を。


 ユーリは確信する。

 新手の任務は、対艦ミサイルによる複合飽和攻撃。

 敵の作戦目標の第一義は『自由船団』の脱出阻止。


 本命は……当然向こうの爆撃機か。

 人民国に共和国。権力のお歴々はよほど、エリシアら『自由船団』に海を渡らせたくないらしい。



「エリシア。どうするつもりだ?」



 ユーリは音声通信を繋ぐ。



『海上方向からのミサイル攻撃はこっちで受け持つわ。ユーリは引き続いて、内陸部からの侵攻を捌きなさい』


「だが、」


『まったくユーリってこれだから。『自由船団』の戦闘艦は飾りじゃないのだけれど?


 ――総員対空戦闘用意‼』

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