4-2
死を迎えた赤く果てた大地に、青黒い毒雨が景色を染めあげる……。
『自由船団』が運用可能な唯一の展開戦力、
コクピットの機械音声が戦雲急を告げる。
『――戦闘情報システム、オールグリーン。蓄電率一〇〇パーセント』
『――対空戦闘、用意』
降りしきる死と化学の『毒雨』――それを糧とする複層発電装甲が、色褪せぬダークグレーの機体に藍色の電流を絶えず纏わせる〈ディサイシヴ・ギア〉改め……〈アルテェア〉には火薬兵器が存在しない。搭載のすべてがエネルギーおよび打突兵器。
なぜなら、毒雨を浴びた複層発電装甲の化学反応でエネルギーが供給される限り『弾切れ』が存在しないから。武装が尽きないがために、戦いが終わらない限り戦場から退かない。
〈アルテェア〉が動きを止めるとき。すなわち戦いがやむとき。
だからこその「
『――対空レーザー。照射開始』
ユーリは無言で。
割り当てられた戦域の目標を、黙々と処理する。
『侵攻目標(トラック)、二四から四八。全機撃墜を確認(ターゲット・キル)』
『更なる地上侵攻部隊、まっすぐ近づく』『一時方向。機影一六。距離三〇〇〇』
『――対近接戦闘、用意』
『――電磁障壁、出力上昇』
電源が喪われないかぎり〈アルテェア〉は戦い続ける。
そして機体の電源は喪われない。戦争が続くかぎり『毒雨』が負降り止まないからだ。
加えて機体フレームは機械的限界を迎えない。限界を迎える前に殲滅が可能だからだ。
敵機の群れが遠ければ焼き殺す。
近づいても焼き殺し。組みつかれても圧し殺す。
背部対空レーザーは違わず飛行目標を射抜く。集団で腰の引けた射撃戦を仕掛けてきても、
今しがた、敵
『――敵二次波の後衛部隊、急速に後退』
『――『自由船団』よりデータリンク』
『洋上より高速で接近する目標一二。爆撃機』『当該機……共和国軍機』
「ちっ」
図ったかのような手ごたえの無さと、他国の新手の出現にユーリは舌打つ。
やはり航空戦力か。
……前衛にあてがわれた敵機体も、無人自律操縦。囮として用立てるならそれで充分らしい。
しかしこの新手の編隊。洋上低空迂回ルートを取ってきた。
〈アルテェア〉には捉えきれないレーダーの死角を。
ユーリは確信する。
新手の任務は、対艦ミサイルによる複合飽和攻撃。
敵の作戦目標の第一義は『自由船団』の脱出阻止。
本命は……当然向こうの爆撃機か。
人民国に共和国。権力のお歴々はよほど、エリシアら『自由船団』に海を渡らせたくないらしい。
「エリシア。どうするつもりだ?」
ユーリは音声通信を繋ぐ。
『海上方向からのミサイル攻撃はこっちで受け持つわ。ユーリは引き続いて、内陸部からの侵攻を捌きなさい』
「だが、」
『まったくユーリってこれだから。『自由船団』の戦闘艦は飾りじゃないのだけれど?
――総員対空戦闘用意‼』
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