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「「よお~っ!」」


「「「「よく来たな、ユーリ!」」」」



 ほぼ初対面にもかかわらず、なれなれしい挨拶が耳をつんざく。



船団長護衛隊ヴェイガス一同歓迎するぜ」

「今日は出航日の前祝いパーティーだ‼ 存分にかっ喰らうからな~!」



 そこは『自由船団』の旗艦こと原子力空母スーパーキャリアー。格納庫の一区画。

 無骨な艦内に野郎共の声がゴキゲンに響くなか、エリシアに招かれたジャケット姿のユーリがいた。



「……エリシア。おれが来てよかったのか」


「いいにきまってるじゃない。ユーリ一人増えたところで変わりないわ」



 老若男女。大勢のにぎわい。

 会場の格納庫はお祭り騒ぎだ。


 めったにありつけないビュッフェスタイルで山盛の料理やスイーツ、ドリンク・アルコールバーはもちろん、色味とサイズがいかれたスカイブルーの超巨大ケーキも。楽しんでいるのは制服姿の乗組員が多いが子ども連れの家族だって珍しくない。エリシア曰く、ここだけでなく他の艦船でも同じらしい。



「で、あれは王立軍の機体ギアか」


「ええ。ユーリの機体とは違って王国製の量産型だけれど、パイロットはエース揃いよ」


「さすがは船団長。いいことをおっしゃる」

「ま~、最精鋭っすからオレら~」

「「そこんとこヨロシクな!」」



 精鋭なのに軽薄な連中はともかく、ユーリは紙皿に取り分けたカットステーキを口にしつつ駐機区画を見る。


 コンパクトにひざまずく人型兵器が二四機、一個戦闘団。

 王国製主力兵騎アインド・ギア――〈ヴィクトリア2〉巡航機。


 大陸三ヶ国の機体ギアの中でも最高傑作と評されるハイスペック機。傭兵界隈で鹵獲機に高値がつく。

 量産機離れした優美なパールホワイトの対電磁塗装に、騎士を思わせるフレームラインが融け合ったデザイン……。高い総合能力により、ワンオフ機である《ディサイシヴ・ギア》にも迫る準決戦兵騎ニア・ディサイシヴと言われるほど。


 その一機が胸部ブロックをせり出しているが、コクピットシートにはメカニックとわいわいしゃべっているどこかの家族の子どもがいる。許可をもらってか、無邪気にパイロットになりきっているらしい。


 ユーリは思う。

 ……平和だ。

 まったくもって平和そのもの。

 エリシアのたくらみの下で、なにか事を起す集団とは到底思えないほどに。



「で。そのエース含めて大陸三ヶ国の水上戦力が、なんでよりにもよってあんたの下に集っている?」



 今さらな問いをユーリは突き付ける。



「隠し事はムダだ。その目的、あんたの口から話してもらう」



 この毒雨降りしきる終わった世界で、原子力空母スーパーキャリアーを筆頭にこれほどの戦力が少女ひとりに従うなどあり得ない。そして各国がそんな行動を許すはずもない。


 外交材料としての出兵。鎮圧兵力の展開。

 必ず、なんらかのアクションが伴う。



「三日後よ。最後の離反船団がここに到着する。これでわたしたち『自由船団』は最後の工程に入るわ」


「離反? なにをするつもりだ」



 ユーリは問うた。

 そして、エリシアは答えた。



「にげる。それだけよ」

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