2-4



「……へえ?」


「なんだエリシア。ずっと振りむいて。おれのカオがおかしいか」


「その通りよ。今のユーリの顔、なんだかにこってしてたけれど。もしかしてわたしに好意でも?」



 唐突な鎌駆けに、ユーリは強がるしかない。



「おれとあんたは単なる契約関係だ」


「ふうん。それはどうも」



 ぶっきらぼうにごまかしたところで。

 ……ぐう、とユーリの腹の虫が鳴ってしまう。


 背に腹は代えられない。とりあえず食おう。

 目の前には上品に座るエリシアの長いプラチナブロンドがチラつくが、食うスペースぐらいはある。かまうものか。食うものは食わせてもらう。


 保温容器入りのラージサイズディナー。

 気が利くことにメイン料理が三セットもある。



 スパイシーに香り立ち、食欲そそられる、根菜類の肉スパイス煮込みベジ・チキンタジン


 ワイルドで肉厚ジューシーな、リブブロック肉のBBQ風グリルハニーソース×ポークリブ


 オリエンタルな色合い、緑黄色野菜と赤身肉の炒め飯特盛サイズブロッコリー&ビーフ・フライドライス(特盛サイズ)。



 どれも『自由船団』の食糧プラント船が生み出した逸品、上質な培養肉と浄化水耕栽培物をふんだんに使った贅沢ディナーらしい。地下スラムの露店や傭兵配給食とはワケがちがう。ユーリは納得する。護衛を引き受けるにふさわしい対価だ。



「どうぞ召しあがれ。あっ、これはわたしの分だけど」



 エリシアがひったくったのは、よりによってユーリが一番気になったリブ肉グリルだった。まあ他の二つも悪くないからムキになるほどでもないが。


 目前のものを黙って食う。

 それがユーリの信条だ。


 まずは炒め飯。

 ——美味い! メシを褒めるのに本来それ以外要らないが、あえていうならパラッパラのコメがいい。油分でコーティングされたコメの旨みはゴロゴロころがっている赤身肉やブロッコリーに負けていない。とにかく香ばしい。肉スパイス煮込みをかけても美味い。もうスプーンが止まらない――



「早喰いは駄目。慎みを覚えなさい」


「バカか。早喰いできない兵士が通用すると思うか?」


「それは知ってるけれどユーリはひどすぎるのよ。ほら、スプーンの持ち方だっておかしいしお米粒がシートに飛び散ってる。マナーがなってないと将来、日常生活で困るじゃない」



 ……将来? 日常?

 思いもよらぬ単語にユーリは失笑した。



「将来とか日常とか、おもしろい言葉だな? こんなクソな世界にそんな上等なシロモノなんかがあるとでも……」


「思う。そのためにわたしたちはったから」



 エリシアは即答した。


 起つ。

 その言葉は決起、叛乱、独立の意図をユーリに感じさせた。

 だとすれば、あの『自由船団』——たかだか一人の少女が抱え込んだ原子力空母やら巡洋艦やらの異常な戦力にも合点がいく。



「まさか、大陸三ヶ国相手に戦争でもおっぱじめようってのか? だとしたらバカげてるな。おれは降りさせてもらう」


「いいえ。ドームにひきこもりの彼らなんて眼中にないもの」


「……じゃあ何のためだ。教えろ」


「いずれわかるわ。その時までよ・ろ・し・く」



 ユーリの問いに、エリシアはまともに答えなかった。

 彼女は意味ありげに煙に巻いて、これでも食って満たされてろとばかりにリブ肉の切れ端をこっちの炒め飯の上へ分け与えてくる。肉質と甘辛いハニーソースがマッチしていて最高なのだが、それはさておきユーリの疑問はより深さを増す。



 あの大船団。『自由船団』。



 あいつらを率いて、この終わった世界で、エリシアは何をしようっていうんだ……?




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