2-3
——降雨警報! 二人のパイロットスーツが同時にアラーム!
ユーリはやむなくエリシアを乗せると、即座にコクピットを格納。
みるみるうちに外はどす黒いスコール。『毒雨』だ。
複層発電装甲を着重ねた〈ディサイシヴ・ギア〉には恵みの雨だが、生物には否。触れれば最後、細胞が壊死して地獄を見る。
ユーリは辟易した。『毒雨』の降りしきる中でエリシアを放り出すわけにもいかないし、レーダー反応からは当分止みそうにもない。
当然、単座コクピットに二人を詰め込むほどの容積はない。
よって座席背部をリクライニングしたユーリの膝上にエリシアがかまわず乗る。まるで座席になった気分だ。物理的に女の尻に敷かれている。
にしても。
エリシアのパイロットスーツ姿。
おおむね女の魅力として強調されるべきものがくっきり、そして艶めかしく表現されている。上からジャケットを羽織るユーリと違い、彼女はパイロットスーツのみだからなおさらだ。見方を変えれば、彼女のいでたちは裸体そのもの。
そもそもパイロットスーツとかいう代物。
「で。どうかしら? 女の子に乗っかられた感想は」
「どうでもいい。オンナなんて今さらだ」
「へえ。本当に? 本当?」
「……ちょっと黙ってくれ。疲れるんだよ反応が」
密室。密着。
スタイルのいい女と二人きり。
当然ユーリも少年だ。人並みには女体に興味があった。だから傭兵で稼ぎ始めた頃には、いくらか「買って」みた。しかし思ったほどでもなく落胆したのは忘れられない。
……なんというか。
からっぽだったのだ。
地下スラムの奴隷や熟達した年増から、傭兵仲間の同年代の女に、誘拐されてきた元一級市民の美女まで。あらかた試したがどいつもこいつもダメだった。外見が違うだけでそろってぬけがらだった。肉のカラダがあるくせに虚無だった。血のかよった人肌に触れているはずなのに寒気がした。瞳が死んでいた。まったく満ち足りなかった。とはいえユーリだって「買った」オンナ相手に過大ななにかを求めてたかはわからないが。
……しょうにもなく、傭兵連中とつるんでいた過去をぽつぽつ思い返す。
『食う寝る遊ぶ』『メシ・カネ・オンナ』
『カタチあるものだけが裏切らない』
歳を食った傭兵連中が口々に言っていた。こんなクソな世界だし、信じられるのはカラダとブツだけだと。
でも、満たされない。
食っても買っても奪っても壊しても埋まらない。
求めるほどに、なにかがスカスカになっていく。
だからいつかの任務でこの〈ディサイシヴ・ギア〉を手にした時、ユーリは悟ったようになにもかもばからしくなって一匹狼になった。ある日〈ドクター〉がいなくなってからは独り身を立ててきたけれど、世の中とやらで目につくのはどうしようもないクズとゴミばかりだったからだ。
下衆とつるんでも心が腐るだけ。
無価値だ。だったら独りでいい。
誰とも会わないし、話さない。いまでもそう思っている。
……けれど。
この女は、なにかがちがう気がした。
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