2-2
空と水は澄んで。四季に緑が茂る。
パンもコメも、肉も野菜も魚も美味い。
店も商品もよりどりみどりな
休みは家族でにぎわう笑顔……。
「遠い世界」のおぼろげさから目覚めたのは、あの女がアラーム代わりに通信してきたからだった。
「哨戒任務、お疲れ様。ユーリ」
「哨戒といっても寝ていただけだ。敵はシステム側で自律探知するから、戦うとき起きてればいい」
謎の少女船団長エリシア・エインスワースとの邂逅から一週間。
流浪の少年傭兵ユーリ・オクトーバは彼女との契約を交わし、〈ディサイシヴ・ギア〉を操り任務に就いていた。
要塞級の人型巨大兵器〈ディサイシヴ・ギア〉が構えるのは、エリシアら『自由船団』の停泊地から一五キロ内陸。
レーダー、長距離兵装、共に死角皆無の高台。すなわち緊要地。
任務は簡潔。このライン以東にアリ一匹通さない。以上。
「にしても。『自由船団』ってのはウソじゃなかったんだな」
ユーリはここ一週間を思い返す。
結論。エリシアはタダ者ではない。
彼女は「船団長」と名乗ったがそれは事実だ。
あの日ユーリが導かれた大陸東端の港湾には、見たこともない大船団が錨を下ろしていた。
超大型タンカーやコンテナ船、クルーズ船を中心に三〇隻。
それらを護るよう
どうやって集めた? 目的は? とエリシアに諸々訊いても「知りたいなら別の契約ね?」などと返してくる。たしかにその理屈はまっとうだし、ユーリ自身気にならないといえばウソになるが……。
それはともあれ。
今ユーリが求めるものは。
「通信はいいんだが晩飯は? もう夜の九時だが」
「ここよ」
はあ? と首をかしげると接近中の振動波形。
画像認識。小型車両が一台で、オフロードバイクのエリシアだった。
しかもボディラインがくっきりな特殊ラバー製パイロットスーツ姿で。護衛抜きの一人で来たらしい。
「なんでココまで来た」
「ユーリずっとそこじゃない。直々にコミュニケーションよ。感謝なさい?」
「あんたがのこのこやってくる意味はない。普段どおり配送ドローンに運ばせろ」
「へえ。〈あんた〉?」
「……わかってる。エリシア、だ。わかったら早くメシをよこせ」
だからドローン相手がラクなんだよと、ユーリはため息を交じりにディナーボックスを受け取ろうとする。
……だが。なぜかエリシア自身がサブアームのカーゴに乗っかる。
「なんのつもりだ」
「乗せてもらえるかしら? お外は怖いもの。『毒雨』に打たれたら死んじゃうわ」
ユーリは辟易する。じゃあ生身で来るなよ。
こいつ、意地でも
「そんなテをくうと思……」
「あっ降雨警報! 早くなさい!」
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