1-4
「皆さんも存分に召しあがって?」
「「おお~っ!」」「ファゥッ‼」
「
穏やかな追想を遮るエリシアらの騒ぎ。
兵士共はパイロットまで跳んできて思い思い大量の培養肉を焼いてはがっつく。こちらはエリシアの慎ましさとは逆で野郎らしい食いっぷりだがその分美味そうで強烈に堪える。
なにせ、この場で肉にありつけないのはユーリだけなのだ。
「ユーリも食べたい?」
「……あんた性格悪いぞ」
「〈あんた〉じゃなくて。エリシア」
「この際あんたでいいだろ」
エリシアは悪びれずに「どうしても食べたいのなら、考えがあるけれど?」などと勿体ぶり食事を中断。つかつかと赤く染まった荒野を歩きながら話す。
「あなた傭兵なのでしょう? 〈ディサイシヴ・ギア〉を個人で所有しているのは疑問だけど軍所属じゃなくてよかったわ」
「なにが言いたい」
「愚問ね。傭兵に頼み事なんて一つ」
エリシアは紙ナプキンで口を拭い。
我臆せずと言い放ったのだ。
「ユーリ・オクトーバ。このわたし『自由船団』船団長エリシア・エインスワースとの、専属護衛契約を交わしなさい」
エリシア率いる兵士野郎の大食い会(当然ユーリ抜き)も終わりを告げ、撤収準備を終えたティルトローター輸送機は赤茶けた砂塵をまき上げテイクオフ……、荒野を立ち去る。もう夕方でレーダー予報では土砂降りが近い空模様。
だが、どういうわけか。
輸送機は肝心の船団長エリシアを置き去りにしていた。
「……ちなみに、放置されたんじゃなくて、先に帰りなさいと命令しただけだから」
「誰も聞いていないがどういうつもりだ」
「ユーリと話がしたかったのよ。二人きりで」
すっかり仲間ヅラのエリシアは恐れ知らずの笑み。
当然ユーリは不審に思う。
この女、なにを考えて荒野に居座るのか。『毒雨』も近いのに。
そもそも契約を呑んだどころか条件内容すら提示されていない。
つまりはまだ赤の他人だ。
「いっておくが『毒雨』が来るぞ。ドーム住まいの一級市民は外のドシャ降りのやつをご存じないんだろうが」
ユーリは皮肉を練りこむ。
『毒雨』。
それは、大陸戦争が引き起こす人災。
そして人型決戦兵騎〈ディサイシヴ・ギア〉がその身に浴びて糧とする半永久化学電源だ。汚れた邪悪が降り注ぐ限り、この
人々を苦しめる根源故に、欠けることのない矛を振るい、人々の盾となる逆説の象徴――。
「そこにいたら死ぬぞ」
「死なないわ。ユーリがわたしを
「……はあ?」
この女の、呆気にとられる予想外の返答。
匿う、だって?
機内情報は秘中の中。パイロットの生命線。
それを抜いてもコクピットは一人乗り仕様で、謎の女をリスク込みで招き入れるなど。
「わたしが死んだら誰が『自由船団』の停泊地までナビゲートするの? おいしいディナーが食べたいなら早く乗せなさい?」
…………ああ。
なるほど。そうくるか。
悔しいがそれは事実だ。ヘンな意地を張ったところで利益も無い。
この場でやり込めたのはエリシア側か。ユーリは認識を上方修正。
この女の鋭さというか胆力というか、認めるには値するだろう。
「わかったから、早く乗れ。カーゴの命綱はちゃんと固定しろよ」
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