1-2
幻聴じゃなかった。人間だ。
通信回線確立。操縦システムに介入。
ユーリもはっと意識を取り戻す。
レーダー探知。当該機、ティルトローター輸送機一。リンクした聴覚もデータの振動波形もけたたましい騒音を捉える。速力減少。徐々に降下。ホバリングモード。こちらにアプローチ……着陸の構えだ。
どこの軍だか武装勢力だか。狙いがわからない。
貴重な航空機を飛ばしてくるわりに脆弱な非武装機。戦争激化の大陸でのんきに遊覧飛行のはずもない。通信越しの冷涼な声からしてユーリよりも遥かに健康で文化的に決まっている。
敵対するには奇妙。
いざとなれば一蹴可能。
せっかく久々に人間に遭ったのだから、話くらいは聞いてやってもいい。それが弾き出したユーリの結論だった。
「……まて。パイロットは、おれだ」
『あら。死んでるのかと思った。でも良かったわ生きてて。幽霊はランチもディナーも味わえないもの』
機体から降りたのは案の定、育ちのいい若い女だった。白い肌に、碧い瞳に、長くたなびくプラチナブロンド。女にしては長身でグラマラスなスタイルで、それを包んでいるのは政治家じみた紺基調のレディーススーツ。
ユーリは確信する。それも嫌な方向に。
ああ。こいつはドームの中の一級市民か。
さぞキレイな環境に住み、毎日ぜいたくな自然食材を食べ、すくすく育ってきたのだろう。 生まれてくる親も時代も国も選べなかったおれたちと違って。
なんの用だ? お姫様め。
「要件をいえ。場合によっては殺す」
「けっこうなご挨拶ね。それよりあなた。お腹へってるでしょ」
金髪ロングでスーツの若い女は、自尊心の強そうな見た目よろしく臆面もなく言ってきた。
……へってるどころじゃない!
食糧確保のアテもない、生きるか死ぬかの話だ。どこまで愚鈍なんだこの女め。これだから一級市民は。
「減って、るさ。それがどうした」
「ええ。それも言葉越しにもごまかせないほど頭が鈍って死にかけるほどには。おおよそ
その女はこっちになにかを投げ渡す。
ユーリはとっさに伸縮サブアーム展開。受け取ってコクピットに。それはパウチ式傷病者用流動食。
一応警戒するべきだったが本能には逆らえず吸引。
チューブを吸うたびにおだやかな甘味が染み渡る。
一〇日ぶりの栄養。脳が否応なく幸福を感じる。
安心してか、とたんに睡魔が襲って……。ユーリの意識はとぎれた。
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