0-2
防衛線が食い破られたか、あるいは全部隊が無力化されたか。
爆発の衝撃とともに司令部は半壊し、すんでのところで屋内に毒雨が降りこまないほどに露わになる。
肥満体で悪人顔の司令官と、その取りまきが腰を抜かすなか。
目の前には、超然たる巨大兵器が屹立する。
目測にして全高五〇メートル級。さしずめ動く遺跡。
華奢に芯を絞られた
すなわち、無言の死刑宣告。
「…………わかった」
悪人顔の司令官は、額に汗を浮かべて言った。
それは、敵パイロットに向けての言葉か。
「手持ちの
なさけない格好で取引。
しかし巨人機械は退かない。
脅しているのか。憎んでいるのか。
はたまた司令官を見定めているのか。
「……私は、准将だ。いまは戦争でこんな荒野を任されているが、立派な一級市民なのだ。家族もドーム内の一級宅地に、いる」
ウソじゃない本当だ信じてくれ、と。許しを請うように震えて縮こまり、男は続ける。
「戦後には、コロニー永住優先権だってある! 議員のコネでお前も地球脱出の第一陣にしてやってもいい! こんな汚れきった地球に這いつくばる必要もない。軌道エレベーターで清潔な楽園へ一直線だ! あ、ああ先立つモノもいるから私の隠し財産も半分やる! これで一生安泰だぞ?」
彼は脂ぎった顔を焦りでゆがめて、早口に逸る。
媚か。あるいは傲慢か。
「そっ、そうだ! ココにはオンナも大勢飼っとるからな! ガキでもババアでも好きなのを選……」
結局。
彼らが司令部ごと巨大兵器の巨体で踏み抜かれたのは、下種さを口走った数秒後のことであった。
戦いは終わった。
残骸の数々。
装甲に穴を穿たれ、あるいは車体ごと歪められ、擱座した無人戦闘車。
飢えと渇きに斃れた兵士にも似た細身の
この大地は、誰からも弔われない墓標となった。
誰の命も育まない、死の大地にふさわしい終着地だ。
降りしきる化学の毒雨——それを糧とする複層発電装甲が、色褪せぬダークグレーの機体に藍色の電流を絶えず纏わせる。
脚部近接スパイク。両腕パイルドライバー。背部対空レーザー、これら針山を成す重武装に両肩部には二門の
その姿はまさに、幾千年とも在り続けた古代遺跡の遺構。かつて人類防衛の象徴にして今は無用の長物……。
汚れきった人類最後の大地に。
降り止まぬ毒雨にざあざあと打ち付けられながら。
真実戦うべき相手なんてすでに喪った決戦兵器だけが、ありもしない天高い青空を見上げていた。
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