エピローグ

エピローグその1

「お父さん、朝だよ」


ゆっさゆっさと誰かが俺をゆする。ゆっくりと目を開くと、柚子……俺と玲奈の娘が俺を覗き込んでいた。


「……ああ」


俺はひとまず返事をして布団をペラリとめくる。するとそこには、今年で34になる澄火と、そして今年小学6年生である娘の愛火がいた。


俺は布団をめくったまま放置し、ベッドから飛び降りる。ついでに体を火で清め、着替えまで済ませてしまった。


「もう、その着替え方、前にやめてって言ったでしょ!」


柚子に怒られてしまった。なんだか今日は機嫌が悪い。

ぷんすかと怒りを露わにする柚子の機嫌を伺いながらリビングへ行くと、メイド姿のシュライエットがキッチンでご飯を作っていた。


シュライエットの娘である未来と深冬はそんな母親を視界に入れないようにしながら、こちらへ挨拶してくる。


「……おはよう」

「おはよ、パパ」

「おはよう、ミリナヴェル、ロイゼン」


それぞれ未来と深冬の真名である。シュライエットの故郷の慣習に従って、俺たちで考えた名前だ。


椅子に腰をおろすと、テレビで俺たち“Colors”の特集がやっていた。少し前に収録したやつの映像がいまだに使われている。


どうやら、柚子が機嫌が悪い原因はこれのようだ。


テレビ番組では、ダンジョンで収録した、「世界よここに……」という俺の詠唱や、シュライエットの権能解放、澄火の護符を燃やす映像などなど、厨二要素満載の映像が流れている。

さらには、それを真似する巷の子供たちの様子も放映されていた。


玲奈はこれにかこつけてグッズ販売まで企んでいるとか言っていたような気がする。


「……まあ、この映像はちょっとカッコつけすぎたかもな」

「…………」


柚子はぷいっと横を向く。

あとでケーキでも作ってご機嫌を取るとしよう。


「おはよー、パパ!」

「…………」


火燐が元気よく、紫雲は無言でそれぞれ部屋に入ってくる。火燐は花の女子高生であり、紫雲はまだ男子小学生だ。


紫雲は思春期なのか、最近は挨拶さえしてくれない。少し寂しいが、そんなものかとも思っている。


「……パパ。昨日の探索でアーティファクト手に入った?」

「今度探索連れてって、パパ」


と、フィフティとグラン。二人はエルとの子供だ。


フィフティは母親に似たのか、サイエンティスト……というよりマッドサイエンティストになりそうな気質を持っている。


グランは子供達の中で唯一の探索社能力持ちだ。ユニークスキルも持っていて、中学生にして既にかなり強い。


いずれSランクにも手が届くと俺は確信している。


ちなみに、俺はこの18年間、SSSランクを維持し続けている。最近は若者がかなり力をつけてきてはいるが……まだまだこの座を譲る気はない。


俺はフィフティにアーティファクトを放り、グランには「また今度な」と返す。

最近は探索依頼が多くて、あまりかまってやる暇が無いのだ。


「……仕方ないね」

「……グラン。あんたはコイツみたいに厨二病になっちゃだめよ」


まだおかんむりの柚子がそう言って俺を指さす。グランは肩をすくめると、席についた。

そのタイミングで、シュライエットが朝ごはんを運んでくる。


「おはよう、旦那様」

「おはよう、シュライエット」


シュライエットは料理をテーブルにおくと、俺のほっぺにキスをしてくる。


シュライエットは現在、ダンジョン探索社教会の職員として活躍中だ。時々、俺と一緒に探索するために派遣されてくることもある。


「さ、食べましょうか」

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