第2話

エルは軽々と塔の地下への扉を開錠し、中へと侵入する。


そして、一見ただの壁にしか見えない場所に手を押し当てた。

すると、そこから幾何学的な金色のラインが部屋全体へと走る。


「……エンジン、起動……完了。生命維持システム……通常稼働中。バックアップシステム起動準備完了……システム起動、完了しました」


女性の声が通路に響く。エルは手前から二番目の扉を開く。ローズさんが安置されている部屋だ。

エルがそばにあるコンソールに手を当てると、ローズさんの目がパチリと開く。


ローズさんは繋がっているケーブルなどを取り外すと、エルの後ろに控えるように背後に回った。


そしてエルは、入り口から見て一番手前の扉を開く。

確か、俺には開けなかった扉だ。


そこにあったのは、SF映画で見たことがあるような、スリープポッドだった。

現代技術ではまだ冷凍睡眠の技術は開発途上なので、間違いなくアーティファクトだ。


スリープポッドは8つあり、その一つには俺もよく知る人物……ヴァイオレットさんやカストル、ポルックスの姿があった。


エルがコンソールを操作すると、淡い紫色に照らされていたスリープポッドに金色のラインが走る。

そして、光の色が紫からオレンジへと変化した。


「あとは頼みます」


とローズさんに言った。

ローズさんは一礼すると、コンソールを操作し始める。


おそらく、コールドスリープの解凍を始めたのだろう。


エルは部屋を出ると、奥の部屋……俺とエルが数多の夜を一緒に過ごした秘密の部屋へと進む。


「少しお話ししましょうか」


エルはそう言ってベッドへと腰掛ける。俺もつられるように、その横に腰を下ろした。


「彼らのコールドスリープが解けるまで少し時間がありますわ」


エルはその美しい瞳をこちらに向ける。


「……何か、わたくしに聞きたいことがあるのではないですか?」

「…………」

「例えば、、とか」

「……いえ」


今になって考えれば、エルが自ら死を選んだことも、そしてその理由も分かる。


エルには隠し事も嘘もあった。あるが……しかし、俺への愛情には嘘はなかった。

それだけは、分かるのだ。そして、それだけで、十分なのだ。


俺はエルを押し倒し、そっとその唇を塞ぐ。


「全てを語る必要はない……そうでしょう」

「……ふふ。あなたがそう言うのなら」


エルは俺の首に腕を回した。

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