VSアンチアーティファクト

第1話

「……エル!」


扉を開いて元の世界に戻ると、そう言って澄火がエルに抱きつく。


理由はよく分からないが、エルの転生前、澄火はエルとかなり仲が良かった。俺の知らないところでも、種々の交流をしていたようだ。


代わりになぜか玲奈とはあまり仲が良く無い。というより澄火が一方的に苦手としているようだ。


澄火はエルを強く抱きしめる。容姿は若干変化しているが、直感と本能の強い澄火は、その魂がエルであることが分かるのだろう。


周囲を見渡すと、『大罪』のメンバーとトップ探索者たちはどちらも引き上げたようだった。

おそらく、扉が俺たちによって開けられて使用不能になり、目標を失ったからだろう。


澄火と師匠、それからシュライエットが、俺たちを待ってくれていたようだ。


……ていうか。


俺はエルヴィーラを後ろからぎゅっと抱きしめる。

俺だってもっとくっつきたかったのに、これまで我慢していたのだ。澄火だけいい思いをするのは少しズルい。


そうしていると、寂しくなったのかシュライエットが俺の背中に抱きついてくる。


内心「俺たち何をやっているんだろうか……」と思いつつも、俺はエルのそばが心地よくて離れられなかった。


「……さて、そろそろ行きましょう」


エルはそういうと、澄火と俺を優しく引き剥がして俺の腕輪に手を触れる。


そして、空間の歪みを制御するアーティファクトを取り出した。


エルの作成したアーティファクト全ては、管理者権限でエルが自由に使えるのだ。それには、俺や澄火の持つ腕輪ももちろん含まれる。


「……起動」


エルがそういうと、銀色の立方体の形をしたアーティファクトに金色のラインが走る。


俺がアンチアーティファクトの軍が作り出したワープホールを閉じた時とは違う起動光だ。


そのまま、キュリキュリキュリと空中にワープホールが二つ生成されていく。


「……そんな機能が」

「私のユニークスキルがあってはじめて成立するものですわ。さて、澄火とシュライエットはこちらへ、地上へつながってますわ」


エルは二人にそういうと、俺の手を引いてワープホールへと飛び込む。

飛び込んだ先は、エルがかつて住んでいた島だった。


時間は夜。今日は新月なのか、月は出ていない。その代わり、満天の星の輝きが空を彩っていた。


エルは『叡智の姫、ここに眠る』と刻まれた自身の墓を一瞥すると、暗闇の中を迷いなく塔の跡地へと進んでいく。


俺は手を引かれるままに、エルについていった。

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