第10話

俺はムラクモの鯉口を切る。


途方もないエネルギーがムラクモから噴出し、俺を包み込む。強烈な全能感が湧き上がってくる。


みしり……


空間を割るようにして、虚空から巨大な赤黒い手がこちらへ伸ばそうとしてくる。権能と同種の、世界の法則を歪める何かを感じる。


「……世界よここに」


詠唱を省略し、俺は自身の周囲に領域を作り出す。そして、俺は窓を蹴って上空へと飛翔する。


––––閃撃・終


渾身の一撃は容易く巨大な手を破壊し、手はあっさりと落下していく。


しかしもちろん、これでは終わらない。なおも侵入を続ける赤黒い手の主に向けて、俺はムラクモの刃の切先を向け、弓のように引き絞る。


これまで体験したことの無いほどの恐ろしいエネルギーが集中する。ムラクモでなければ、とうに崩壊しているだろう。


俺は領域を上手く使ってそのエネルギーを制御しつつ、巨大な手の主の全貌が見えるまで待つ。


「グオオオオン……」


楽器や機械では再現できないような重厚な低音が響く。

そして姿を表したのは、全身に触手のような体毛を生やした異形の生物だった。


異形の生物が触れた空気から汚染されたように赤いモヤが周囲に広がっていく。

明らかにこの世界を侵略……いや、侵食しようとしていた。


残念ながら、表面からは生物の核……弱点となる場所は見えない。が、こっちには古代文明の遺物と、生物としての直感がある。


パトラムの装甲を左目を覆うようにに出現させ、ユーザーインターフェース起動する。

そして、異形の生物をスキャンする。


「……見えた」


明らかに温度が高く、さらに生物の構造から考えても異形の生物の動力源となっているであろう部位に俺は照準を合わせる。


そして、そこへと全力で飛翔する。


「はあああああああ!」


––––閃劇・天貫


音速を遥かに超えるスピードで、ムラクモが異形の生物へと突き刺さる。

そして、込められている凄まじいエネルギーが動力源となっている臓器を破壊し、さらに異形の生物の中で荒れ狂った。


維持できなくなったのか、空間が徐々に閉じていく。最後は異形の生物の体が捻り切られ、どちゃりと地面に落下した。


しゅうう……と土が溶ける独特の匂いが周囲へと蔓延する。


「……絶界」


俺は不可視の斬撃で体をバラバラにし、焼き尽くす。この辺り一体を汚染するのは、流石に阻止しておいた方がいいだろう。


と、どおんという音がして塔が倒壊する。瓦礫の上に立つエルのそばに俺は着地した。


ムラクモがひとりでに鞘に収まる。世界の危機が去ったということの証左だろう。


「……さあ、いきましょう」


俺はそう言ってエルを抱え、翼を展開した。

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