第9話

少女は美しい金髪を持ち、黒いドレスを身に纏っている。

身分を指し示しているのか、宝石で彩られたティアラをつけている。


そして少女の瞳は、この世の全ての知が凝縮されたような光を湛えている。


その瞳と、そして俺の魂が、目の前の少女が愛する人であることを確信していた。


「……エル」

「はい、あなたのエルヴィーラですわ……この世界ではサーシャと名付けられましたが」


少女は俺の方に一歩一歩近づいてくると、俺の持つ短剣の刃にそっと手を触れる。


すると、短剣は小さな粒子となって少女へと吸い込まれていった。


エルに幻影も同時に、少女に重なるようにして消失する。


「……この短剣は一体?」

「私の魂の欠片……それを封じ込めたものですわ……ふふ。色々と……あったようですね?」


エルはイタズラっぽい笑みを浮かべた。

どうやら、エルの短剣を介して、エルがいなかった時の出来事を知ったようだ。


「ええ」


俺は少女……エルヴィーラの手をそっと握りしめる。


「……まさか、生まれ変わっているとは思いませんでしたよ」

「正直賭けでしたわ。それでも、こうしてもう一度あなたと出会えた……それだけでも、賭けた価値があったでしょう」


俺たちは互いの指を絡ませ合う。

俺は狂おしいほどの愛に脳を焼かれそうになりながらも、言葉を紡いでいく。


「……あなたを愛しています。もう一度……」


言い終わる前に、エルはそっと俺の唇を塞ぐ。


「わたくしはこの世界でも、異物イレギュラーですわ」


異物イレギュラー。エルの孤独を表した言葉として、これほど適切な言葉はないだろう。

俺はそんな孤独に惹かれ、それを癒したいと望んだ。


「では俺があなたの居場所を作りましょう」


エルは微笑むと、ぎゅうっとこちらを抱きしめてくる。


「……さて、時間がありません」

「……ええ。わかっておりますわ」


この世界とあちらの世界では、時間の流れが違う可能性が高い。


その違いがどれくらいなのか……あるいはどういったものなのかはわからないが、滞在時間は短い方がいいだろう。


エルはさっと手を振る。すると、塔がゴゴゴゴゴと動き出した。


おそらく、この塔全体がエルの手でアーティファクトに改造されているのだろう。

転生しても、エルのユニークスキルはそのままのようだ。


クリスタルが組み合わさり、紫色に輝く。


「封印を崩せばここに厄災の魔物が登場しますが……」

「心配いりません」


俺は窓のそばに移動し、三対の翼を展開する。

そして、愛する人に宣言する。


「俺は、最強ですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る