第7話

瞬間、世界から、音も光も……匂いさえもが消失する。


そんな世界で、位置関係を頼りにぎゅうっとシュライエットと澄火が横から抱きついてくる。

声も、吐息も聞こえない。

互いに高性能な戦闘服をきているので、全く温もりも感じられない。

それでも、とっくん……とっくん……という確かな鼓動と、戦闘服越しに伝わってくる確かな柔らかさが、二人の生を伝えてきた。


ここは世界。

光も、空気も、何もかもを排除した、俺たちだけの世界だ。


……澄火、シュライエット。


三人で三角形を作るように抱きしめ合う。


……構築開始


そんな世界で、闇夜を照らす月の光のように、黄金の光が灯る。


シュライエットの発する膨大なエネルギーを、俺と澄火の二人で適切に処理し、再びシュライエットに流す。


しばらくそうしていると、不安定にゆらめいていた力が収束していく。


そして数秒後、三人だけの世界は崩壊し、シュライエットは準備していた技を発動させる。


「空が!」


金のラインで、夜空に目のマークが描かれていく。

止めようとこちらにトップ探索者が向かってくるが、俺と澄火でしっかりとブロックする。


俺と澄火の補助はあくまで発動時のブースター……一度発動を始めさえすれば、あとはシュライエットだけで技を完成させることができる。


空の瞳が完成する。


「……プリムスの瞳」


ギイーン……という音が響き渡り、シュライエットの権能が戦場全体に向けて発動する。


「……ここは私の世界!」


シュライエットがそう宣言すると同時に、戦場にいる俺たち––––俺、澄火、シュライエット、そして師匠––––を除く全員の位置座標が変更される。

そしてその0.5秒後、再び位置座標が変更される。


「……旦那様、この隙に」

「……ああ」


徐々に瞳は閉じていっている。効果が切れるのも時間の問題だ。


澄火は扉に手を当てて、権能を発動させる。しばらくすると、「全てを崩壊させる」澄火の権能に耐えきれなかったようで、結界は粉々に砕け散った。


俺は短剣を大事に握り込み、扉に手を当てる。


「……エル」


エルの幻影が現れると、すっと扉の中へと入っていった。


「……行ってらっしゃい、旦那様」

「ああ。行ってくる。澄火も」

「……ん」


澄火からは別れの言葉は特になく、ヒラヒラとおざなりに手を振るのみだった。


さっき俺が構築した“世界”の中でちゃっかり俺の唇を奪ったので、満足しているということかもしれない。


俺は扉を開き、その奥へと飛び込んだ。

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