第5話

エルの幻影の導きによってたどり着いたのは、一つの扉だった。

澄火と共に異世界へと迷い込んだ時に見た扉にそっくりだ。


「……そこでストップだ」


背後から声がすると同時に、扉に薄紫のバリアのような物が貼られる。


振り返ると、トップ探索者が10人ほど、集まってきていた。アメリカの探索者ザ・ヒーローを始めとした英米圏の探索者たちだ。


「その短剣をよこせ。それから、ここを立ち去れ」


ザ・ヒーローはその名にふさわしくない嫌な笑みを浮かべると、そう要求してきた。

俺はザ・ヒーローを睨みつけ、即座に答える。


「断る」


そういうと、ザ・ヒーローは驚いたように大げさなリアクションを取る。


「……おいおい、まさか俺たちを相手にやり合う気じゃないだろうな?」


そう言うと、ザ・ヒーローたちはジリジリと近づいてくる。

俺は炎刀を召喚し、飛ぶ斬撃––––絶界を足元に向けて放つ。


「それ以上近づけば……斬る」


まさか実力行使に打って出るとは思わなかったのか、探索者たちが色めき立ち、次々に武器を構え出す。


「……ご歓談中失礼」


一触即発の空気の中、場にさらなる闖入者が現れる。中性的な容姿の白髪の少年……組織『大罪』に所属するメンバーの一人、『暴食』だ。


「悪いけど、力を返してもらうよ」


『暴食』は俺の目でさえ捉えるのが難しい速度でザ・ヒーローの腹部に手を当てる。

しかし、『暴食』の手はバチリと弾かれた。


その隙を狙い、ザ・ヒーローは手刀を放つが、その一撃は『暴食』に回避された。


「まさか何の対策もしていないとでも思ったのか?」

「……へえ。抵抗するんだ。『憤怒』、『傲慢』。悪いけど、力を貸してくれ」


『暴食』がそう呟くと同時に、上から少女が二人降ってきた。


一人は燃えるような紅の髪と瞳を持つ、ガントレッドをつけた少女。

そしてもう一人は、戦場に似つかわしくない西洋のドレス風の衣装を来た少女だ。


おそらく、組織『大罪』のメンバーだろう。


俺たちは扉を守るようにして警戒し、ザ・ヒーローは俺たちと『大罪』を同時に睨んでいる。

そして、『大罪』は俺たちには目もくれず、欧米の探索者たちの隙を伺っている。


微妙な均衡を崩したのは、さらなる乱入者だった。


「……ほう。我が仇が三人……そして、何より『天使』と『天翔』がいるではないか。これはこれは……」


芝居がかったようなセリフと共に、ひらりとシルクハットにタキシードという、怪盗を思わせるような格好をした男が戦場に舞い降りる。


そして、カードを俺たちの方に投げてきた。

俺は人差し指と中指でそれを挟むようにして受け取り、カードの表面を見る。


予告状

今宵、『死神』をいただきに参ります

黒子ビハインドザシーン所属『闇夜』


「……黒子ビハインドザシーン

「私の国の怪盗を穢すようなマネはやめてもらおう」


ザ・ヒーローのそばにいるしたフランスのトップ探索者『Lalumie』がそう言って問答無用で攻撃を加える。


『闇夜』と名乗る黒子ビハインドザシーンの構成員はひらりと身をかわすと、パチリと指を鳴らす。


「さあ、の始まりだ」


『闇夜』の能力によって、世界が闇に染まる。

そして同時に、場にいる全員が動き出した。


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