エピローグ

作戦終了後。


玲奈の屋敷に帰ってきた俺は、玲奈とともにまったりとした時を過ごしていた。


澄火は帰ってきてすぐに寝てしまった。シュライエットはというと、日本ダンジョン探索者協会での仕事が残っているらしく、本部で勤務中だ。


玲奈はまだまだ仕事が溜まっているのか、俺の膝の上に乗り、カタカタとパソコンのキーボードを叩いている。


そっと後ろからのぞくと、ただ真っ白の染まった画面が見える。


「これがなきゃ見えないわよ」


玲奈はそう言って装着しているメガネを俺に渡してくる。

受け取ってかけてみると、パソコンを覗いた瞬間に俺の視界全体に多数の画面……というよりホログラムが映し出される。

来栖財閥の関係企業だけでなく、海外資本や敵対する企業などの情報を下に、玲奈がトップを務める企業に向けて指令書を書いていたようだ。


そのあまりの情報量の多さに俺は頭痛に襲われて、慌てて眼鏡を外した。


「よくこんなのつけていられるな」

「要は選択と集中よ」


玲奈は少し得意げにそういった。


「エルならアーティファクトでホログラムを実現できるでしょうけど、科学ではまだこの程度ね」


どうやら来栖財閥の研究所で試験的に作られたものらしい。


「もう少し常人向けにチェーンナップする必要がありそうだな」

「そう言っておくわ」


と、俺のタブレットから通知音が鳴る。タブレットに表示された通知を見る限り、麻奈さんからのメールのようだ。


タブレットは少し離れた場所にある。しかし、玲奈が膝に乗っているので取ることができない。俺は玲奈に少しの間降りるように伝えようとしたが、玲奈はそれより早くポケットから取り出したいくつかのボタンのついた銀色の棒をタブレットに向ける。


自動でタブレットのロックが解除され、メールが表示される。

玲奈はそのままサイドのボタンの一つを押すと、ひょいっとメールをパソコンに持ってくるような動作をする。


そして、俺に眼鏡を差し出してきた。


俺は肩をすくめてそれを受け取り、玲奈の右肩に顎を乗せるようにして画面を覗く。余計な情報は玲奈が隠してくれているので、今度は頭が痛くなるようなことはない。


「……オリジンの攻略が……一週間後か」


しかも今回はどういう風の吹き回しか、これまでとは違って各国の「最強」が集うらしい。過剰戦力ともいえるような陣営だが……はたしてどう転ぶだろうか。

それだけ攻略に困難が伴うのか……あるいは単なる政治的パフォーマンスに終わるのか。


いずれにせよ、これでいよいよ決着がつく。


「……決着をつけてきなさい。この子のためにも」


俺の心中を見透かしたかのように、玲奈はそう言って下腹部を抑える。まだ確かなふくらみは感じられないが、

その手にそっと手のひらを重ねる。


「…………俺って駄目な夫かな?」


ふと浮かびあがった不安が口をついて出る。


「ええ」


玲奈は微笑んで肯定すると、俺のほほに手を当ててくる。


「でも……自慢の夫で……そして、自慢の父親よ。この子にとって……ね」

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