比翼の連理

「ただいま……わっ」


一ヶ月ぶりにマンション“Star Elements”にある自宅へ戻ると、玄関に入るや否や澄火が飛びついてきた。


「……ん」


ぐりぐりと額を押し付けて全力で甘えてくる澄火。


「……寂しかった」


俺は澄火のほっぺたにキスをしたり、耳たぶをつまんでみたり、構いまくって宥める。


「……うー」


澄火はしばらく俺に抱きついたまま離れなかったが、やがて俺を解放した。

俺は逆に澄火をヒョイっとお姫様抱っこして、リビングまで連れて行く。


ソファに腰を下ろし、澄火を俺の足が枕になるように寝かせ、ちょうど膝枕をするような格好になった。

澄火は目を閉じて、俺と手を繋いでくる。


「……澄火」

「……ん?」

「これから、玲奈の家に住む気はないか?」

「玲奈の……家に?」

「ああ。正確にはその一つ……最もプライベートな家、だな。俺と澄火、それからシュライエット……そして、俺たちの子供が住む」


ちなみに提案したのは玲奈だ。


俺の子供は、俺の莫大な財産を受け継ぐが……それゆえに、信頼できるものの少ない、孤独な人生を送る可能性が高い。


少なくとも、子どもたちは一緒の場所で生活させて、少しでも人間関係を強固にしておいた方がいいだろう。


尤も、親がこんなことを考えていても子供がどうなるかは全くわからないが……


「どうだ?」

「……ん。いいと思う。ここはどうするのか?」

「俺は……残したいかな。ここは……色々と思い出もあるし」


実質的に住み始めてから、一年どころか半年も経ってない。

それでも、ここには澄火やシュライエット、そしてエルとも過ごした思い出がたくさんある。


「……ん」


澄火は頷き、上体を起こすと、俺の膝の上に乗ってきた。

そしてそのままむぎゅっと抱きついてきた。


「……なんか、急に頼もしくなった」

「……そうか?」

「……ん。あ、若くん、結婚おめでと」

「ありがとう」


俺の今の名前は翔のため、もう「若くん」ではないが、澄火は若くんよび継続のようだ。


「これ、一応お祝い」

「…………?」


澄火は腕輪から一つの小袋を取り出す。開けようとしたら、澄火に慌てて制止された。


「……開けたら力が出ちゃう」

「……どういうことだ?」

「……ん。その小袋には“怠惰”の力が収まってる。開けたら1日くらい、周囲にいる敵の戦意を奪うフィールドが展開される」

「へえ…」


権能の力を物にこめることなんてできるのか。


「使い捨てだから、気をつけてね」

「ああ」


俺はポケットにそれを丁寧にしまう。

しばらくゆったりと過ごしたら……日常に戻ることにしよう。



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