愛の契約 

「……んん」


三日間にわたる結婚式を終え、山荘に来た日の翌朝。

目が覚めると、玲奈は俺の腕の中ですやすやと心地良さそうに寝息を立てていた。


時計を見ると、午前10時を指している。普段の玲奈なら確実にもう起きて仕事をしているか、あるいは学校に行っているかという時間だ。

しかし、今日からの一ヶ月は玲奈にとっては休暇でもある。玲奈が仕事に縛られることは一切ない。


「……ふあ」


玲奈は身じろぎをすると、ゆっくりと目を開く。


「おはよう、玲奈」

「……おはよう、カケル」


玲奈は寝ぼけ眼のまま挨拶を返してくる。寝起きだからか、普段の玲奈とは違ってふにゃふにゃした感じだ。


……まあ、昨晩は夜更かしをしたからというのもあるかもしれないが。


玲奈はそのままのそのそと起き上がる。布団が滑り落ちて、玲奈のあまり発達しているとは言いがたい上半身が露わになる。


「……やべ」


俺は腕輪からポーションを取り出して、玲那に飲むように促す。

玲奈は頭に疑問符を浮かべつつ素直に飲む。


しかしさすがはエルが認める頭脳の持ち主と行ったところか、ポーションを飲み終わった段階でその理由に気付いたようだ。


ジト目でこちらを見てきた。


「……変態」

「……まあ否定はしない」

「……なんでこれを吸いたかったのかしら?まだ何も出ないし、そもそも出るかも怪しいくらいなのに」

「……さあな」


俺は明後日の方向を向く。

なぜそんな暴挙に出たのか、ぶっちゃけあんまり覚えてない。


「……はあ」


玲奈はため息をつくと、ベッドを降りる。美しい黒髪が、ふわりと広がった。


「シャワー浴びてくるわ」

「そうか。じゃあコレ」


俺は腕輪の中から預かっていた玲奈のバスセットと着替えを渡す。


「ありがとう。あなたは……」

「先にご飯の準備をしてる。俺は炎で身を清められるからな」


意味不明な発言を聞いたとばかりに玲奈は少し呆れた目になる。

しかし俺にとっては純然たる事実だ。


玲奈がバスルームに行ったのを確認して、俺はベッドからヒョイっと飛び降りる。


そして、空中で一瞬炎を纏い、体の汚れを燃やし尽くして着替えを行う。


何をカッコつけているんだと思われるかもしれないが、これが1番効率がいいのだ。

同じように澄火は体を紫電に変化させて、シュライエットは体の表面に爆破を起こして同じことをやっていたりする。


着替えを終えた俺は台所まで行き、朝食の準備を始める。


玲奈が出てくるまで少し時間があるだろうし、それに昨日の夜焚いておいた白米がある……今日は和食ということでいいだろう。


魚を焼き終わり、お味噌汁に味噌を解き終わり……と言ったところで、シャワーを浴びてさっぱりとした玲奈がバスルームから出てきた。


水色の、シンプルなワンピースを身に纏っている。

あまり飾ったものには仕上げていないが……体のラインに合わせて作ったので、着心地は抜群のはずだ。


「……私この服トランクに入れた覚えないのだけれど」


玲奈はそう言いながら、鏡の前で自分の姿を確認する。

俺は配膳に手を動かしつつ、頷いた。


「そりゃ、俺の手作りだからな」

「……ふーん。へえ……そう」


緩みそうになる頬を必死に引き締めようとしているのが、手に取るように分かった。


この同棲期間中に、素直な笑顔を見せて欲しいものだ。


「……ご飯食べるぞー」


俺は玲奈を呼んで食卓につく。


まあ焦ることはない。俺と玲奈の蜜月な生活は、まだまだこれからなのだから。

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