天使

「探しましたよ」


俺はリリアから呼び出され、日本アルプスの山中に存在する飛騨ダンジョンの中にいた。


飛騨ダンジョンは100回層……つまり深層の手前までは何の変哲もないダンジョンだが、真相には天まで貫く大きな木……通称世界樹呼ばれる木が一つある、世界でも珍しいダンジョンだ。


木の葉や枝、実は様々なものに加工できる……と言われているが、実際に実用化に成功した例はゼロだ。

それでも世界中の研究機関からの需要が多い上に、実質的に飛行能力が必須となる攻略の難しさによる供給の少なさによって、ここのダンジョンの素材はかなり高い。


リリアはそんな世界樹のてっぺんに近い枝––––この空間の入り口がある地上からはだいたい高度16kmほどか––––にちょこんと座っていた。


「いい景色ですね」

「……そうですね」


俺はひとまずリリアの隣の枝に腰を下ろす。一体どんな硬度をしているのか、そこまで太くないにもかかわらず枝はぴくりとも動かなかった。


「……羽は……黒く染まったままですね」


羽は左の羽が漆黒に染まっている。


「『堕天』は……どうなったんですか?」

「消滅しました。元々『堕天』は……私が『堕天』の要素を無理矢理拒絶した結果生まれた、架空の人格ですから」


権能は世界の法則を自身の都合のいいように歪めることができる。その力は––––少なくともリリアの権能に限って言えば––––権能にも有効だったようだ。


リリアは立ち上がり、両手に剣を召喚する。


「……我が弟子よ。あなたもこの魔境攻略作戦を通じて成長しているはず。その力……見せてみなさい」


俺はリリアの言葉に応え、両手に刀を召喚し、背中に二対の翼を展開する。

一対はリリアから授かった翼……そしてもう一対は、ユニークスキル『炎刀・氷刀』から派生した炎の翼と氷の翼だ。


「……いきますよ」


勝負は一瞬だった。

先手を取りに来るリリアに対して、俺は瞬時にカウンターを打ち込む。

紙一重……されど確かな差を以て、俺の攻撃はリリアに届いた。


リリアは無言で剣の召喚を解く。


「……決して手を抜いたわけではありませんが、あなたは私を上回る力を見せた……もはや最強の座は半ばあなたに渡っているでしょう」

「……師匠」

「あとはその力を世界に見せるだけです。その場はもう整っているはず……期待していますよ」

「…………」


リリアは日本ダンジョン探索者協会が成立して間もない頃から、日本の探索者のトップに君臨している。


その重圧を、今度は俺が受け継ぐ番だ。


ただ、それでも……


「……師匠」

「どうかしましたか?」

「これからも指導、よろしくお願いします」

「当然です。あなたは我が弟子なのですから」


リリアはそういうと、美しく、尊い微笑みを見せた。

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