忠義の献身

“Ruin”での戦いの後、シュライエットはマンション“StarElements”にある自室から出てきていなかった。


心配になって合鍵で俺たちの部屋から一階下の部屋に入って、寝室のベッドで体育座りになり、毛布にくるまるシュライエットを発見した。


「……寝てないのか?シュライエット」

「……旦那様」


俺はシュライエットの横に腰を下ろす。


「……私の黒子ビハインドザシーンでの仕事は……敵対する組織の壊滅だった」

「……うん」


やがてシュライエットはぽつりぽつりと話しだす。


「……相手は犯罪者だったし……それに、私のことを下卑た目で見てきたような奴らばっかりだったから、罪悪感は湧かなかった」

「……うん」

「……だから、自分が黒子ビハインドザシーンに所属して、仕事をすることにも疑問を持たなくなってたんだ。今私が大切にしてる、大切なランゲル島の教えさえ……忘れかけていた」


シュライエットは今15才。

黒子ビハインドザシーンに売られたのはおそらく13才くらいか。


まだ自我が定まっていない時期だし、人格形成に大きな影響を及ぼす年齢でもある。


「……シュライエット」

「……でも本当は気付いていたんだ。黒子ビハインドザシーンが……本当はあんな虐殺を平気で起こす組織だということを……そして、それが初めてではないだろうことも」


実のところ、シュライエットは特殊戦闘員という立場にいたとはいえ、黒子ビハインドザシーンの中核には近くなかった。


戦力としてのみ価値を認められており、内部情報などにはほとんど触れていなかった。


……しかし、組織に所属している以上は、たとえ秘匿されていたとしても、内部情報など否が応でも入ってくる。


それに目を逸らしていたというのならば、それはその通りだろう。


だが、だからと言って何ができたのか。


俺と澄火、そしてリリアという三人の権能を持つ探索者をもってしても封じることしかできないような奴がいる組織である……個人で歯向かうことなど、できるわけがない。


とはいえ、シュライエットはそんなありきたりな回答を求めているわけではないはずだ。


俺が……シュライエットの主である俺だけが言えること、それは……


「シュライエット」


俺はシュライエットと目を合わせる。


「俺も同じだ。多くの人間が死ぬことをわかっていて、この作戦を立てた」


『死神』の存在はあらかじめ知っていた。それでもこの作戦を止めなかったのは俺だ。


「シュライエットの罪は俺も背負う。だからシュライエット……俺の罪を君も背負ってくれ」

「……旦那様」


しばしの沈黙が流れる。


やがて、シュライエットは俺の右手を取り、そっと手の甲にキスをした。


「旦那様の御心のままに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る