エピローグ

魔境“Ruin”攻略作戦は総じて失敗に終わったと言える。


本命である魔境の中心となっているダンジョンの破壊には成功したものの、参戦した探索者のうち俺と澄火、そしてリリアを除く全員が死亡。


同時間帯にグリーンランドの探索者協会本部、および魔境攻略作戦の作戦司令部が襲撃され、現場にいた非探索者を含む多くの命が喪われた。


さらに、黒子ビハインドザシーンの中核メンバーは逃走したと見られ、現在も捜査が続いている。


「……んー」


そんな中、俺たちはアメリカの高級ホテルのスイートホテルに泊まり、ゆったりとくつろいでいた。


「……ん……若くん」


澄火はごろごろと甘えてくる。


「……どうしたんだ?澄火」

「……ん……」


澄火はぴたりと身じろぎをやめ、じーっとこちらを見つめてくる。


「……怖かったから」

「何がだ?」

「若くんも……私も、あそこで死ぬかと思った」


……確かに思い返せば、この作戦はは今までで最も死に近づいた戦場だった。


リリアが来るのが一歩遅かったら、俺たちは『死神』の即死攻撃に抵抗できず、死んでいただろう。


「……ん」


澄火は俺の唇に吸い付き攻撃をしてくる。


いつにも増して随分と情熱的なちゅー。澄火の言う、戦場での死の恐怖の裏返しだろう。


澄火はそのままぎゅっと体を丸めると、俺の腕の中にすっぽりと収まる。


「……若くんの結婚式は……一週間後だよね」

「ああ」

「……その後、玲奈と子供作るんでしょ?」


ちょっと口先を尖らせてそういう澄火。


「まあ、そうなるだろうな」


玲奈は来栖家の継嗣でもあるし、当然跡継ぎを作る必要がある。


「……ふーん」

「……まあまだ先の話だがな」

「…………?先?」


澄火はキョトンとした表情になる。


「……あれ、若くん知らない?玲奈は結婚式後、一ヶ月以内に妊娠するつもりだよ?」

「……え?」


玲奈はまだ15歳……


と、俺は気づいた。玲奈は確か、結婚式の後、一ヶ月間山荘に籠ると言っていた。あれは……そういうことだったのか。


昔の価値観からしても、ずいぶん早いような気がするが……来栖家の伝統というやつだろうか。


「……ん。私も……むぐ」


濡れた瞳でこちらを見る澄火の唇を塞ぐ。


澄火は一ヶ月のうち、何日か行為を避ける日がある。

澄火はかなり直感が強いため、自身が妊娠する可能性が高い日がなんとなくわかるのだろう。


そして、サイクル的に今日はちょうど澄火が行為を避けそうな日だ。


まあ、つまりは……そういうことだ。


今更意思確認などはしない。絡めてくる手足が、熱に浮かされたような澄火の表情が、全てを物語っている。


俺は澄火をスイートルームの豪奢なベッドに押し倒した。

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