第10話

リリアは右手に純白、左手に漆黒のエネルギーを生成する。


「……ふむ」


死神は平静を装っているが、その額には脂汗が浮かんでいる。


リリアは羽ばたくと、死神へと突貫する。

動きがあまりにも速すぎて、加速装置・制限解除インフィニットアクセルの動きにも対応できる俺の動体視力をもってしても、ほとんど瞬間移動にしか見えなかった。


「…………」


リリアはそのまま、『死神』に両手のエネルギーを叩きつける。

『死神』は大鎌でそれに対応するが、ジリジリと押し込まれていく。


普段のリリアからはあまり考えられない、強引な攻撃。


リリアは両手のエネルギーから手を離すと、今度は純白と漆黒……二振りの剣を召喚する。

そして、猛烈なラッシュを仕掛けていく。


リリアの織り成す黒と白のコンチェルトは、どこまでも暴力的で、そして芸術的だった。


「ふは……ふはははは!」


死神は哄笑すると、背後に魔法陣を展開する。

前に見せた二つの魔法陣……魔境内の探索者を皆殺しにした魔法陣と、そして死神と対象以外をフィールドの外に弾き出す魔法陣とは、また別のものだ。


!」


魔境の内部から……いや、魔境の外からも黒いモヤが死神の背後の魔法陣に集まってくる。

おそらくは権能を持つ者にしか見えない、世界の法則を歪めている証。


「……ん!」


澄火がオーラを以てそれらのモヤを打ち消そうとするが、実態を持たないためか消滅が効かない。

もしかしたら、あの黒いモヤはゲームのエフェクトのように視覚的な意味しかないのかもしれない。


「これを発動させるのは久方ぶりだ……嗚呼、昂るな……」


死神は陶酔に浸るようにそう言うと、鎌の形状を変化させる。

刃のついていない方の柄の先端から、もう一枚の刃が出現する。


「……ぐっ」


と、不意にリリアに刻まれた聖痕スティグマが焼けつくような痛みを発する。


本能的に、『天使』と『堕天』が融合したことで聖痕スティグマもまた進化を遂げているということが分かる。


「……若くん、翼が」

「……翼がどうした?」


俺は背後の羽をチラリと見て驚く。右の翼だけ、純白から漆黒へと変わっていた。


おそらく、今の俺は『堕天』が使っていた技も使えるようになっているはずだ。


(……我が弟子よ)

(……師匠?)


不意にリリアの声が俺の脳内に響く。


(––––このまま死神を倒し切るのは不可能です。彼女は死神……死を司る存在。例え殺そうとも瞬時に復活することでしょう)


確かに、『死神』の権能を持っているのであれば、逆説的に不死属性を持っていてもおかしくはない。


(––––ならばどうすれば?)

(それは––––––––。よろしく頼みますよ)

(––––了解)

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