第9話

「……堕天!?」


現れたのは、師匠––––『天使』とそっくりの容姿を持つ少女……『堕天』であった。


オークション会場での戦いのあと、日本ダンジョン探索者協会の本部地下に封印されていたはずでは……?


「……ん。多分、『天使』と『堕天』の力は同質のもので、『天使』の封印は『堕天』に効かない可能性が高い」


と、澄火の解説。


ならば、今まで『堕天』が外に出てこなかったのは、何か意図があってのことだということか。


『堕天』は俺たちに構わず、『天使』と話す。


「……俺はお前の一部なんだ。お前が権能『天魔』から弾き出した……な」

「私は……」


俺は『死神』のフィールドを再び突破し、師匠と『死神』の間に割って入る。『死神』はうざったそうに眉を顰める。


「……師匠……いや、リリアが何を抱えているのかは分からないが……ひとまず今は大丈夫だ。こいつは俺が倒す」


正直言って『死神』に勝つビジョンは全く見えないが、俺はそう大見得を切る。


「……ん。

俺たちはそれぞれの権能を展開する。

澄火はどうか分からないが、俺は権能の使用にあまり慣れていないため、ここまでの戦闘でもうすでに息切れを起こしそうだ。


何としてでも、早いところ勝負を決める必要がある。


俺はさらに、聖痕スティグマにエネルギーを込めて、さらなる力を引き出していく。


「いくら小細工を凝らそうと無駄だ。鍛えられた私の権能に勝てる者など存在しない」


死神はそう言って周囲に大量の骸骨のモンスターを召喚し、さらに即死の効果が乗った火の玉を生み出す。


「……ほら、弟子は覚悟決めてんぞ?お前はどうするんだ?」

「…………」


背後の会話に構わず、俺は死神と激しい戦闘を繰り広げる。

モンスターや火の玉を全て澄火のオーラで消し飛ばし、絶界やアム・レアーで弾幕を張りながら斬撃を一つ一つ丁寧に紡いでいく。


「……ぐっ」


鎌が掠った場所が腐り落ちる。

権能を持っているためか……あるいは掠っただけだからかこの程度で済んだが、鎌にもしっかりと即死効果が乗っているようだ。


「……まずは厄介なお前からだ。


『死神』は自身と澄火以外を弾き出すフィールドを展開する。

俺はまたもフィールドの外に弾き出された。


澄火は瞬時に誓いの指輪を使用し、フィールドの外に抜け出そうとするが、フィールドの効果によって阻まれてしまっている。


「善と悪」


その時、『天使』はそう、決意の眼差しを以て祝詞を唱えた。


『堕天』はそれを見て、ふっと表情を綻ばせ、『天使』の祝詞に応える。


「一つとなりて」


『天使』と『堕天』は両手を合わせ、目を閉じる。


この世のものとは思えない程に神聖な美しさを持つ『天使』、そしてそれに瓜二つの容姿だがどこか背徳を感じさせる『堕天』……二人の姿は、まるで神話の挿絵のようであった。


世界の法則を捻じ曲げ、エネルギーが二人の周りを渦巻く。


そして、祝詞が完成し、儀式が始まる。


「「完全なる個となる」」


黒と白の複雑な波長の光が溢れ出し、二人の姿を覆い隠す。そして現れたのは、白と黒の翼を持つリリアだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る