第8話

リイン……


その時、音叉が共鳴したような音が響き、俺と澄火の周囲に黄金のバリアが展開される。


「……間に合いましたか」

「……師匠!」


バリアを張っているためか、手を輝かせたながらそう言う『天使』。

いつも通りに純白の衣装に身を包み、美しい翼で優雅に浮遊している。


俺の額が熱い。おそらく、聖痕スティグマを介して俺のもとにワープしてきたのだろう。


「……弟子の危機を感知してきてみれば……なるほど、権能持ちですか」

「……はい」


『天使』はぐるりと戦場を見渡す。俺も同じように戦場を見渡し……息を飲んだ。


探索者たち……おそらくは黒子ビハインドザシーンのメンバーと思われる探索者も含めて、全員死んでいる。


それも、この魔境にいたであろう探索者が全て。


「…………」


探索者という職に就いてから、度々死体を見ることはあったが……この量を目撃するのは初めてだ。

もはやここまで凄惨な場面ともなると、特に何も感じない。


「彼らの死を無駄にしないためにも……やつはここで仕留めましょう」


『天使』はそういうと、片手に純白の剣を喚び出し、白金のオーラを纏わせる。

そして、周囲にいくつもの光輪を浮かべ、さらに鎖を召喚する。


「いきましょう」

「……はい!」


俺は澄火の紫電を纏い、『天使』とともにクロスアタックを仕掛ける。


「……ふむ。流石に三対一はキツいな……」


『死神』は今度は別の魔法陣を背後に展開する。


「死は孤独なり」


そう呟くと、『死神』と『天使』を囲むようにフィールドが展開され、俺と澄火が弾き出された。


「……若くん!」

「分かってる!」


俺は怠惰の力を秘めた銘刀・紫電でフィールドを消滅させようとする。しかし、権能で生成されたフィールドだからか、抵抗が強い。


その間にも、『天使』と『死神』は激しく切り結ぶ。

周りを気にする必要がないからか、以前の『堕天』との戦闘とは動きのキレが段違いだ。


しかしそれでも、若干ではあるが『死神』が押しているように見える。武器同士を打ち合わせた時に、力負けしてしまっているようだ。


「貴様の権能……不完全だな?……なるほど、半分ということか」


謎めいたセリフを『死神』が吐く。


「…………」


『天使』は何も答えないが、表情は苦しげだ。


「……抜けた!」


と、澄火の権能によるフィールドの消滅が完了する。

俺は色欲を全力で展開しつつ、『天使』に加勢する。本来はSSランク以上の探索者が共闘するなど、普通の手段では不可能だが……俺の『色欲』があれば別だ。


味方の攻撃は俺には当たらず敵には必中させることができるからだ。


「……


『死神』はまたもやフィールドを展開する。残念だが、俺たちの力ではフィールドを消滅させることはできてもフィールドの展開を阻止することはできない。


「……師匠!」

「……ぐっ」


フィールドの中で、『天使』が『死神』の攻撃を受けて吹き飛ぶ。


「……だから言ったろ?いい加減、俺を受け入れろと」


と、突如出現した闖入者が、そう言い放った。

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