第5話

––––閃撃・双


俺はステータスの出力を瞬間的に最大まで引き上げて、両手の刀でエックスを描くように斬りかかる。


「……ふむ」


死神は余裕でそれを回避すると、代わりに手に火の玉を生み出す。

ゆらゆらと不吉ゆらめく妖しい火。


それをヒョイっとこちらに放ってくる。


軽く躱すような動作を取ると、追尾するようにふらふらと俺の方へ火が寄ってくる。


正直火の玉は何の脅威も感じなかったが、だからこそ俺はそれを必死になって避け、氷によるバリアを貼る。


すると、火の玉の消滅引き換えに、が溶けて崩れ落ちた。


「……ふむ。直感かな?それをすり抜けるようなもののはずだが」

「……触れたものを問答無用で即死させる技……と言ったところですか」


俺はその様子から、火の玉の能力の輪郭を読み取る。


「さて、な」


死神はそう言うと、火の玉をいくつも放ちつつ加速して俺に攻撃を仕掛けてくる。


俺はそれを避けつつ、死神と切り結んでいく。


「ぐあああ!」


と、流れ弾が戦闘を繰り広げる探索者の一人に直撃する。探索者は断末魔を上げ、そのまま地面に墜落していく。

もはや彼の体から生命の息吹が感じられない。


この作戦に参加でき、さらにこの混沌とした戦場である程度生き残る力を持つ探索者。

その命を容赦なく奪い取る即死スキル……バランスブレイカーもいいところだ。


俺や澄火はユニークスキル『リスポーン』の効果があるため蘇生可能だが……その効果を適用していないその他の探索者に当たった場合、対処のしようがない。


「……使うしかないか」


あまり大勢の前で使いたくはないが、背に腹は変えられない。このままでは……この戦場にいる全員の命が危ない。


俺は権能『色欲』を解放する。


「憎しみをここに。我が無償の身勝手な愛を以て、その憎しみを引き受けよう」


どくん。


世界が鼓動するような音が響き、俺の下に死神への憎悪と、そしてそれに付随する数多の負の感情が集まってくる。


恨憎怨辛悲哀怒恐憂悩苦鬱憤……


一体これまでどれほどの悲劇を生み出してきたのか、解放者の時とは非にならないほどの負の感情が集まってく。


吐き気を催すようなそれらの負の感情に呑まれそうになりつつも、俺は何とか正気を保ち、もう一つの力を解放する。


––––スキル発動『能力奪取』


ユニークスキル『能力奪取』の『追加効果・スキル奪取』の発動条件は俺が強い感情を持つこと……今、それは成った。


俺の手にどこか悍ましさを感じさせる、漆黒のエネルギーが生成されていく。


それを刀に付与し、俺は死神に斬りかかり、打ち合った瞬間にそのエネルギーは死神に叩きつける。


「ふふふ」


死神は、薄気味悪く微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る