エピローグ

数日後。


アリス––––実験の被験体だった彼女には、便宜上の番号意外の名前はないらしい。そんな彼女に、俺が贈った名だ––––の死を看取った俺は、玲奈の住む屋敷の一つに呼び出されていた。


屋敷は今どき珍しい古風な日本屋敷だ。

内装が現代の科学技術を使ってさまざまに改良され、居住性やセキュリティが高められている。


玲那の待つ部屋へ行くと、玲奈はノートパソコンを三つ展開し、何やら忙しく作業をしていた。


しばらく玲奈の後ろでそれを見守っていると、一段落ついた玲那が一旦手を止め、俺の膝の上に腰を下ろした。


玲奈の体勢が安定するように、俺は背後から緩くホールドしてやる。


「今日はどうしたんだ?」

「今日が何月何日か覚えているかしら?」

「…………?あれ?何日だっけ?」


探索者である俺には曜日の感覚は無く、何なら暑さや寒さなどもほとんど関係がないため暦どころか季節の感覚すら薄れてきている。


「今日は十二月二十一日よ」

「……そういえば、結婚までもうすぐか」


確か玲奈の誕生日である一月六日に結婚するんだったか。

確か次の魔境の攻略が一週間後だから、その後になるだろうか。


「私とあなたの結婚式があるわ。その詳細がこれね」


玲奈はそういうと、三つの紙の束を机上から取り上げて俺に差し出してくる。


「……三つも?」

「ええ。結婚式は三回やるもの」

「三回!?」


俺は驚く。


「最初は来栖家で行う結婚式。次に、来栖財閥の人間を集めた結婚式。それから最後に、政財界の重鎮を多く招待した結婚式。それぞれ意味合いが違うけど、重要なものよ」

「…………」


俺は紙の束をペラペラとめくる。

式次第を初めとして、マナーや礼儀作法など、新郎として知らなければならないことが網羅的に書かれている。


おそらく、玲奈が忙しい中作成したものだろう。


「……結婚式はいつやるんだ?」

「一月六日から三日間かけてやるわ。その後一ヶ月間、私たちは山荘で二人っきりで過ごすことになるわ」

「山荘?」

「ええ。ハネムーンの代わり……と言ったところかしら。予定は開けられるかしら?」

「ああ。その辺りは問題ない」


次攻略するのはグリーンランドにある“Ruin”だ。後処理、および次の作戦の用意には二ヶ月の期間を要すると目されており、一ヶ月という期間なら余裕で確保することができる。


「そう。なら良かったわ。あらゆるものはこっちで用意するから、あなたはそれを全て覚えてきて頂戴」

「了解だ」


俺は資料を腕輪にしまい、再び玲奈を後ろから抱きしめる。

資料を読むのは後だ。今はひとまず、お疲れな玲奈を癒すことにしよう。

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