第7話
魔境攻略作戦はつつがなく完了した。
一部のアメリカダンジョン探索者協会所属の探索者は何かを血眼になって探していたが、最後まで見つけられず、悔しそうな顔をしていた。
他の探索者たちは何かきな臭い匂いを感じたのか、遠巻きにその様子を見ているばかりだった。
俺たちはというと、シュライエットに後のことを任せて、祝勝会を欠席して早々に日本へ帰国していた。
「早かったわね」
「怪しまれない程度に急いで来たので……彼女の様子は?」
日本ダンジョン探索者協会に急ぐと、麻奈さんが出迎えてくれた。
「……悪いわ。おそらくもう三日も持たないでしょう。色々と手は尽くしたけど」
「……3日も持たない?」
俺は衝撃を受ける。
なぜ、そんなことに?助け出したあの時は、特に何も不調を訴えてはいなかったが……
「あなたに会いたがっていたから、会いに行ってあげて。リスポーン地点近くの独房にいるわ。アクセスできるようにしておくから」
「了解です」
俺は麻奈さんの下を辞去し、B20の監獄エリアへと向かう。
麻奈さんが監視しているのか、特にセキュリティを突破するまでもなく、俺が進むと同時に扉が開いていく。
そして、指定された独房へと進む。
中には、患者衣を着せられて、ベッドに横たわる少女の姿があった。
「……起きてるか?」
「うん。……まさかあんな乱暴な方法で日本に連れてこられるとは思わなかったわ」
「……まあ、悪いとは思ってる」
俺はベッドのそばに置かれている丸椅子に腰を下ろす。
「色々と聞きたいことはあるが……まず最初に、レイヴァント王国第三王女の、エルヴィーラを知っているか?」
「……ふーん。あなたの大切な人なんだね」
俺の表情から何かを読み取ったのか、そんなことをダンジョンマスターを名乗る少女は言った。
「……知ってる。何度か話したことがあるわ」
「話したことがある?」
俺は少し驚くと同時に、なぜエルヴィーラがダンジョンマスターについて知っていたのか納得した。
「うん。色々と話をしたわ。……それにしても、ふーん。あの子はこういう男が好きなんだ」
少女は俺の爪先から頭のてっぺんまで舐めるように見る。
「……人体改造……いや、人体実験の末、最早性別すら失った私にはもう恋なんてできないけれど……少し憧れるわね」
人体実験……おそらくはアメリカダンジョン探索者協会の恥部か。
「エルヴィーラは、ダンジョンの世界を繋げる機能、それからダンジョンの制御について知りたがってたわ。……その知識を何に使うのかは知らないけど」
世界を繋げる機能……ダンジョンの制御。エルの島に残された短剣……繋がりそうで繋がらない情報の
エルヴィーラは一体何をしようとしていたのだろうか……?
と、空咳が俺の思考を中断する。
少女の咳の様子から、明らかに弱っていることが分かった。
「……私はもうすぐ死ぬけど……死ぬまでに私が持つ情報を話すから、それまで話し相手になって欲しいな。……私を助けてくれた、他でもないあなたに」
少女はそう言って力無く笑う。
俺は立ち上がって、少女をぎゅっと抱きしめた。
「情報の対価として、それぐらいならお安い御用だ。……君の安住の地を奪ったのは、他でもない俺だからな」
「そんなこと気にしなくてもいいよ。あそこは孤独で、苦痛に満ちた場所だったから」
少女は俺の腕の中で体を弛緩させる。
「しばらくこのままで頼むよ。ちゃんと話はするからさ」
「……ああ」
俺は少女がいいと言うまで、不自然な凹凸のある体を抱きしめ続けた。
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