第16話

水上夫妻は当時無所属であったため、同じ無所属の探索者たちと共に統治派の応援にも行ったのだという。


しかしそれは、さらなる惨劇を生むことになってしまう。


助けに入った水上一派を統治派は敵が攻め込んで来たものと誤認し攻撃。

それによりモンスターとの戦闘の均衡に異変が生じ、探索者とモンスターが複雑に入り乱れる地獄の戦場と化した。


結果として、霧矢美玲を始めとする統治派の中心人物の大多数が死亡。水上一派も、半数以上が死亡した。


戦いの詳しい経緯などは、麻奈さんは話してくれなかった。かなり悲惨なものであったことは間違いない。


「お前たち統治派の事情も今は知っている。予知派によって破滅に追いやられたことも。だからこそ俺たちは、日本ダンジョン探索者協会に入って、内部から改革することにしたんだ」

「……だが、お前たちは未だに『予知者』に振り回されているだろう?肝心なところは何も変わっていない」


ダンジョンが世界にできる前、科学技術は人間の道具を進化させたが、人間そのものは進化させていない……人間の精神も全く成長していないと言われることがあった。


ステータス能力も同じなのかもしれない。


ステータスは人間の肉体を進化させ、またスキルは既存の法則を書き換える力を与えた。

だが、人間の精神は全く成長しなかった。

そのせいで、こういう悲劇が各所で生まれている……俺の最愛の人が、レイヴァント王国でかつて失敗したように。


「『予知者』に振り回されている限り、同じような悲劇は繰り返される。だから……を殺さなくてはならないんだ!」


忘剣はそう叫ぶと、周囲に煙の狼を展開する。

水上さんは身を切られるような痛みを感じているかのように眉を顰める。


「……最早話し合いで解決などできないか……わかっていたことだが」


水上さんは自嘲気味にそう言うと、剣を構える。


「……せめて俺の手で引導を渡してやる。お前は間違っていないのかもしれない。だが……今の俺には、今の秩序を創り出した者としての責任がある」

「ならば死ね。俺の邪魔をするな」


先ほどまで長々と攻撃の応酬を続けていたが、勝負は一瞬だった。

ふっと双方の姿が消え去ったかと思うと、忘剣が倒れ伏し、そして水上さんがその側に現れる。


「……作戦終了。帰還を開始しよう」


水上さんはしばらく悲しそうに死体を見つめていたが、やがてそう宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る