第15話
『円環』は、『瞬剣』が戦いやすいように、捕らえた解放者のメンバーを脇に避けていく。
俺はアーティファクトピース3“天輪”を腕から外し、ひとまとめにされている解放者のメンバーたちの頭上に浮かべ、そこを中心としたバリアを張る。
「結婚したんだったか?隼人」
「……ああ。麻奈とな。幸せにやっているよ……まだ先だが、子供が生まれる予定もある」
「…………」
『忘剣』は『瞬剣』を睨みつける。
権能「色欲」を持っている俺には、『瞬剣』への強い憎悪がひしひしと伝わってきた。
「……俺から幸せを奪っておいて、貴様はのうのうと幸せを享受するというわけか?」
「ああ、そうだ……とでも言えば満足か?」
忘剣はその言葉に激昂したように、『瞬剣』に攻撃を仕掛ける。
そこから、激しい攻撃の応酬が始まった。
実は、2人の因縁……ひいては日本ダンジョン探索者協会と解放者の因縁については、麻奈さんから少し聞いた。
この世界がダンジョンにでき始めた頃、日本の探索者界隈には大きく二つの勢力があったらしい。
一つは“予知派“、そしてもう一つは“統治派”である。
予知派は『予知』というユニークスキルを持つ相川未愛という少女を中心としたグループである。彼女のスキルによって探索者たちは生存率が格段に上がっていた。
このグループがいくつかの組織を吸収して出来上がったのが、後の日本ダンジョン探索者協会だ。
そして統治派は、当時はまだ魔境ではなかった龍宮のダンジョンマスターを中心としたグループである。
彼女の名は霧矢美玲。『忘剣』の、かつての恋人である。
「……『予知者』を殺すまでは、俺は止まらない……止まるわけにはいかないんだ」
「……まだそんなことを言っているのか」
「うるさい!お前たちも、いつまであいつの奴隷でいるつもりだ!」
彼ら統治派はダンジョンを攻略するのではなく、制御し管理下に置くことを目指して活動していた。
しかし、ある日悲劇が起こる……『予知者』が、「ダンジョンマスターによって大きな被害が出る」という予言をしたのだ。
これを真に受けた予知派の探索者は統治派にダンジョンマスターの引き渡しを要求。
当然それを拒否した予知派に対し、統治派は攻撃を仕掛けたのだ。
統治派は龍宮に籠り、ダンジョンマスターとしての能力を駆使することによって戦闘を膠着状態に陥らせた。
「……まさかまだここを拠点に使っているとはな」
「彼女の残した聖域だ……離れるはずもないだろう?」
しかし、龍宮に篭る統治派を、さらなる悲劇が襲う……ちょうどその時、龍宮がダンジョン災害を起こしたのだ。
どうやら、ダンジョンマスターがいようともダンジョン災害というのは起こるものらしい。
強力なモンスターが次々と現れる絶望的な戦場をコントロールし、あるいはモンスターを撃破することで予知派の探索者を逃す英雄的な活躍をした探索者……それこそが、水上夫妻である。
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