第12話

後ろを向いた十数秒後。


「……答えよ」


澄火の呟きと共に、猛烈な悪寒が襲ってくる。

振り向いて刀を抜き放ちたくなるも、俺は何とかこらえる。


10分ほどその悪寒に耐え続けていると、ぎゅっと澄火が後ろから抱きついてきた。


「……ん。もう大丈夫」


澄火の温もりに、悪寒が徐々に癒えていく。

おそらく権能『怠惰』を使ったんだと思うが……もしかしたら、俺の持つ『色欲』がそれに反応し、警鐘を鳴らしたのかもしれない。


「……で、ヴァルハザールは何だって?」

「……ん。特に何も知らなかった」

「は?」

「多分、時間稼ぎ用の捨て駒要員」


……なるほど。


となると、ここを突破するためには自分たちでこの部屋のギミックを解明しなくてはならないわけだ。


ダンジョンでよく見る、扉がない……もしくは扉が開かない系統のギミックは、大体中のモンスターをすべて倒すことで道が開く。


それ以外のギミックとしては、誰が作ったのか分からないパズル、もしくはアーティファクトの部屋のように何か特定のものを持っていないと開かないタイプ。


一番最後の場合が可能性が高そうなのが厄介である。


「……ん。どうする?」

「……ひとまず」


俺は絶界を発動して、ヴァルハザールの首を刈り取る。体を上下に分断されたヴァルハザールは抗うことを許されず、屍と化した。


その瞬間に、ガシャんと周囲の壁が地面に吸い込まれ、大量のモンスター群が出現した。


すぐに隠れてしまったが、一瞬、部屋の隅に扉が見えた。


「先に行け」


と、『不吉』が周囲に重力のフィールドを展開しつつ言った。


「了解です。澄火」

「……ん!」


『不吉』は重力の波動を送り、扉までのモンスターを薙ぎ払って道を作る。

俺たちは瞬時にその空間に飛び込み、扉を半ば蹴破るようにして部屋の外へとたどり着いた。


おそらく、ヴァルハザールを殺したことで作動したギミックは、道の先であると同時にトラップでもあったのだろう。


扉の先は、通路が続いている。まさに迷宮を彷徨っているような気分になりながら、直感力のある澄火を半ば追うようにして奥へ奥へと進んでいく。


「若くん、後ろ」

「分かっている」


俺はアム・レアーを展開して、後方を狙う。


「心配いらない」


と、俺たちを追ってきた『円環』が周囲に輪を展開する。

すると、モンスターの進撃が止まった。


いや、というより……


「空間をループさせた。これで奴らはこちらに来ることができないだろう」


『円環』はそう宣言する。あまり『円環』の能力は知らないが、そんな力もあるようだった。

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