第11話

結構落下しているはずだが、一向に地面へ辿り着く気配がない。


「……澄火」

「……ん。ただ深いだけ。特にスキルによるものではない」

「……なるほど」


俺は指パッチンをしてひとつまみの炎を生み出し、下に放ってみる。


「……うん?」


炎はある深さまでいくと、ふっと消え去った。


「……罠だ」


『不吉』は言うと周囲に重力のフィールドを展開する。

その深さを突破する時、ミシリという何かが壊れるような音がした。


「……俺たちを害するような罠なんてあるのか?」


俺たちのステータスを突破してダメージを与えるような罠なんて、あまり想像がつかないが。


「おそらく転移罠だな。どこに飛ばされるのかは知らんが」

「……転移罠」


俺の脳裏に、不意にダンジョンマスターという単語が浮かぶ。ひょっとして、その罠はダンジョンマスターとしての権能を駆使して創られたものでは……?


「出るぞ」


『円環』がそう呟くと同時に、俺たち4人は開けた空間へと突入した。そのまま、地面へと着地をする。


「ふはは!まさかこんなところまで来るとはな!」


そこで俺たちを待ち受けていたのは、見覚えのある獣のような人間だった。

やたらとテンションが高いところも、変わっていない。


「我が名はヴァルハザール!この名に於いて、貴様らを通すことはない!」


確か前回は、『瞬剣』が撃破したものの、ワープスキルで逃げられたんだったか。


俺はぐるりと部屋を見渡す。

この部屋の出口が見当たらない。認識阻害か、あるいは物理的障害か……手段はわからないが、何らかの方法で隠されているようだ。


––––絶界・無


俺は予備動作を全くせずに、炎と氷、両属性の飛ぶ斬撃を放つ。


「……む!?」


さすが獣というべきか、ほとんど勘だけで斬撃を回避していく。

しかし、流石に斬撃の数が多すぎたようで、すべて避け切るようことはできない。


そして、避ける動作に集中していれば、続く攻撃を避けることはできない。


––––絶界・火影


俺は炎刀を喚び出し、抜刀術を放つ。不可視の炎の斬撃が飛んでいき、ヴァルハザールと名乗る獣の男を上下に分断した。


ヴァルハザールはどさりと崩れ落ちて、苦しげにもがいている。


「……誰か口を割らせる手段を持ってませんか?」

「……ん。持ってる」


と、名乗り出たのは澄火。

なぜか俺の体をグイグイと回転させ、ヴァルハザールから背を向けさせようとしてくる。


「……どうしたんだ?」

「ん。見ちゃダメ」


……鶴の恩返しか何かかな?


俺はそう思ったものの、澄火に従ってくるりと回転した。

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