第9話

俺は奇妙な神殿に着陸して、シュライエットを地面に降ろす。


周囲の建物は、屋根と壁がほとんど崩壊していて、もはや“建物の跡地”と飛べる状態だ。


ただ、奥に飾られている女神像と、元は白かったのであろう、地面からいくつも生えている巨大な柱から、この建物が元は神殿であっただろうことが読み取れる。


神殿の中央には大穴が空いていて、そこから禍々しい空気が漏れ出している。

いうまでもなく、その奥にはダンジョンがあるのだろう。


神殿を見回していると、上から続々と探索者たちが降りてくる。



虚空から澄火が現れる。


「……ん。『紫電』、ここに見参」


そういうとクルリとターンしてポーズを決める。俺たちの間に、何とも微妙な風が流れていった。


澄火は少しいたたまれそうにすると、俺を盾にするように後ろに隠れた。


『……十三人揃ったわね?探索者の位置情報から判別して、30分以内にそこに到着する探索者はいないわ。いつでも突入してちょうだい』

「私の他にここで残って防衛を行うのは、『白鯨』かしら?」


側に多数のモンスターを侍らせた『死帝』がそう言った。チラリと上を見ると、体に紋章が刻まれた龍や鳥の姿もある。

どうやら、討伐したモンスターを操ることに成功したようだ。


「私も防衛に回るよ」


と、シュライエットがそう言った。


「……シュライエット?」

「いざという時の脱出の起点が必要でしょう?」


それは確かにそうだ。シュライエットが地上にいれば、いつでも地上に脱出することができる。


「……よし。突入組は我々日本組と、海外組で別れる……でいいのか?」


と、『不吉』。


「構わない。お互い能力が分からない中では事故が起きる可能性の方が高い。そして、それを共有するような時間も信頼もないだろう」


と、英語で回答するのは『Darkness』。詳しいことはわからないが、その名の通り、闇を操るスキルを持つらしい。ハンサムなアメリカの探索者だ。


「了解だ。見た感じ、入り口が二つあるっぽいから、それぞれのチームが別の入口に入ればいいだろう」


……二つ?


俺は神殿のような建物を見回す。

建物の中心には禍々しい空気を感じる大きな入り口があるが……二つ目の入り口は一体?


「……ん。若くん、あそこ」


と、背中側から澄火が方向を示す。そちらを見ると、何やら扉のようなものがあった。

先ほど神殿を見回した時に視界に入っていたはずだが、気が付かなかった……つまり、何らかの認識阻害効果が働いているということだろう。


俺の直感が働かなかったということは、かなり強力な効果だ。


「……ん。大丈夫。私に任せて」


俺の思考を読んだかのように、澄火はそう言った。相変わらず、頼りになる相棒だ。


「では行こうか。魔境の奥へ」

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