第8話
異形のモンスターの横を駆け抜けると、嘘のようにモンスターがいなくなった。
俺はそれをいいことに、魔境まで高速で飛行する。そんな中、麻奈さんの全体通信が入ってきた。
『……現状を報告します。突入隊は現在、13名が魔境半径5km以内への侵入を成功。他は一度撤退し、体勢を整えた後再びの侵入を試みる予定』
13名……各国の選りすぐりの探索者が突入をかけているはずだが、意外と成功した探索者は少ない。
俺とシュライエット、そして澄火を除けば十人しかいない。
『魔境より溢れ出した大量のモンスターの掃討に関しても、順調に進んでいます。以上』
そう言って麻菜さんは全体に向けた通信を切る。そして代わりに、俺の個人回線を開いた。
『……お疲れ様。あまり時間はないから、手短に……まず、突破に成功した探索者だけど、あなたたち『天翔』『爆破』『紫電』の他の日本の探索者は『死帝』『不吉』『白鯨』『円環』ね。そのほかは海外の探索者よ」
全員顔見知りの探索者だ。
『死帝』はモンスターの死体を操るネクロマンサー。『不吉』は重力を操る強力なユニークスキルを持つ。
この2人が、SS級探索者だ。
そして『白鯨』はその名の通り白い大きな鯨を召喚して戦う。『円環』は、概念を操る奇妙な能力を持つ探索者。
彼らは俺と同じ、S級探索者である。
「魔境に到着した段階で合流できると思う。合流したら、『死帝』と『白鯨』がダンジョンの入り口を防御し、あなたたちにはダンジョンに突入してもらうわ」
「了解です。……ちなみに、今の所死者数はどんな感じですか?」
「……25名ね」
25名……
千人以上が参加する作戦でこの死者数は、統計上で見れば少ないものなのだろうが……しかし、そうは言っても重いものである。
作戦を自分のために起案した俺が背負っていかなければならない数字でもある。
「……気にする必要はないわ。彼らは探索者として、生き残る自信があった。だからこの作戦に参加したのよ。それは決して理不尽な死ではない。あなたが彼らの死を背負うことは、彼らの死を嘲笑うのと同義よ」
「…… 玲奈!?」
玲奈が通信に割り込み、俺を嗜めてくる。
そう言えば、通信システムを構築したのは来栖財閥だったか……確かに、玲奈なら通信回線にアクセスすることも可能だろう。
「他人のことを考えるのは、作戦が終わってからにしなさい。今はただ、あなたの目的を果たすことだけを考えなさい。いいわね?」
そう言うと、玲奈はぷつりと通信を切った。
「……なかなか愛の重い娘ね」
麻奈さんは少し呆れたような声でそう言った。
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