第4話
しばらくそのままの体勢でたわいない話をしていると、コンコンとドアをノックする音が響く。
「入るわよ?」
「まずっ」
玲奈が聞いたこともないような声をあげると、膝の上から降りようとする。
慌てたせいか、体勢が崩れて地面へ落ちそうになっているので、慌てて俺は支えてやる。
そして、ガチャリと扉が開いて1人の女性が入ってきた。目元が玲奈とそっくりな美しい女性……俺は一目で、玲奈の母親だということが分かった。
「……全く、結婚前の女子が何をやっているのかしら?」
「……違うのよ、お母様。これは」
「ほう。何が違うのか、言ってみなさい」
「…………」
どうやら、なにも違わなかったようである。
玲奈は少しほっぺたを膨らませると、俺の膝から降りて、俺の横に座った。
玲奈の母親は対面のソファに優雅に腰をかけると、俺に挨拶をしてくる。
「初めてお会いしますね。来栖家現当主の来栖貴音と申します」
「私は……」
「いえ、自己紹介は不要ですよ……日本ダンジョン探索者協会所属S級探索者、『天翔』の若槻翔殿」
俺も自己紹介をしようとしたが、機先を制されてしまった。
貴音さんは眼光鋭くこちらを見てくる。
「……玲奈と婚約を交わしたそうですね?」
「ええ」
取引の結果です……そう続けようとして、俺は玲奈に手で口を塞がれる。
チラリと見ると、玲奈は何か懇願するような視線を送ってくる。
……ははあ。
俺はぴーんと来てしまった。こいつ……契約で婚約を結んだことを報告してないな?
「……来栖家としては、婚約を歓迎しようと思っています。ですが……この婚約が不当な手段でむすばれたものであるのならば、この婚約は破棄しようかなと考えています」
「……なるほど」
俺と玲奈が婚約したのは、エルが死んだ直後だ。だから、怪しんだ……ということだろうか。
あるいは親娘だからこその、なにかわかることがあったのだろうか……再びチラリと隣を見ると、玲奈は少し青い顔をしている。
まったく、玲奈も玲奈で不器用な女の子である。
まあ、先ほどは玲奈に心を支えてもらったのだ……今度は俺が玲奈を守ってやる番だろう。
「……玲奈」
「ふあ!?」
俺はひょいっと玲奈を抱き上げて、俺の前に座らせる。そして、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「この通り、俺はもう玲奈を離す気はありませんよ」
玲奈の耳が真っ赤に染まる。貴音さんが面白いものを見たとばかりに微笑むと、こういった。
「ふふふ。ならば良いでしょう……これからよろしくお願いしますね。不器用な私の娘を、どうか守ってやってくださいな」
どうも、すべてお見通しのようだった。
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