第2話

「旦那様って……」

「うん?」

「結構Sなところもあるんだね」

「…………」


俺はなんと反応したらいいのか分からずに、沈黙を守った。


「あと、結構手慣れてたね」

「…………」


引き続き黙秘権を行使する俺に、シュライエットはクスクスと笑うと腕の中から見上げてくる。


「ふふふ。冗談だよ」

「……そうか」


俺はシュライエットの頭を撫でる。


黒子ビハインドザシーンにいた時より安全で、かつ健康に良い生活を送っているからか、髪質が出会った時よりもさらに良くなっている気がする。


「……ちなみに、澄火とのえっちはどんな感じなのかな?」


シュライエットは興味津々と言った様子でこちらを見てくる。

女の子と2人きりで過ごす時には他の女の子の話はしないのがマナーだと聞いたことがあるが……まあ、当の本人が聞いているのだからいいだろう。


「澄火は、ひたすら貪ってくるな」

「む、貪って……」


何を想像したのか、シュライエットが耳まで真っ赤に染めている。


「わ、私とは正反対だね」

「…………」


俺は流石にコメントできなかった。


「話題を変えないか?」

「……む。そうだね……じゃあ旦那様」


シュライエットは、少し真剣な目になる。


「なんだ?」

「私は旦那様のことを愛しているけど……私のことを愛する必要はないよ」


急に重い話になった。


愛する必要はない、か。つまり、シュライエットは怖いのだろう。俺に愛されることが……自分が誰かに愛されるということが。


過去は消えない。シュライエットが黒子ビハインドザシーンにいた事実は、消えることはない。そして、黒子ビハインドザシーンが俺の最愛の人を殺した事実も。


「……でも、子供は欲しいかな。私の故郷の宗教でも、子供は必ず持つべし……と言われるからね」


ずいぶんと前時代的だが、シュライエットの故郷、ランゲル島のコミュニティを存続させるために必要な教えだったのだろう。


「……そんな、“都合のいい女”でいいのか?」

「うん。……私にとっては、その方がいいんだ。旦那様に愛されるのも魅力的だけど……私はこうして、旦那様を癒し、守る方がいいかな」


そういうと、シュライエットはグイグイとよじ登ってくる。そして、俺の頭をぎゅっと抱きしめてきた。とっくん……とっくん……というシュライエットの心臓の音が聞こえる。


世間一般とはかなりズレた価値観だ。しかし、俺たちはステータス能力を得た探索者だ。

こと男女の問題について、世間一般の価値観に縛られる必要などないだろう。


「それで、旦那様。旦那様に忠誠を誓った私は……何をすればいいのかな?」

「……魔境を攻略したい。シュライエットも参加してくれるか?」

「もちろんだよ」


シュライエットはそういうと、俺の唇に己の唇を重ねてきた。


その後ひとしきり甘い時間を過ごしたのち、俺はシュライエットが軟禁されている部屋を出た。

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