第1話 赦し

「旦那様……」


シュライエットが軟禁されている部屋へ行くと、ベッドに腰を下ろしているシュライエットは悔恨と謝罪の念が込もった表情をこちらに向けてきた。


「…………」


俺の最愛の彼女を殺したのは、かつて彼女が所属していた組織……黒子ビハインドザシーンを含む一団だ。

そのことが、彼女を苛んでいるのだろう。


俺はシュライエットの心情を察して、ぎゅっと強めに抱きしめてやる。


「……大丈夫だ。シュライエット」

「旦那様……」


シュライエットは少し居心地悪そうに抵抗していたが、やがて腕の中でおとなしくなった。


やがて、ぽたりぽたりと涙の雫が垂れ始めた。


「……ごめんなさい、旦那様」

「……シュライエット」

「……ごめんなさい。私に泣く権利なんてないのに」

「…………」


俺には、頭を撫でてやるくらいしかできなかった。


色々と溜め込んでいたのだろう。シュライエットは心の膿を出し切るようにひとしきり涙を流すと、そっと俺から離れる。


「……旦那様。おいで」


そういうと、シュライエットは俺をベッドに押し倒して、自らの膝に俺の頭を乗せてくる。


「……ありがとう、旦那様」

「……いや。シュライエットは、俺に忠誠を誓う騎士として戦ってくれた……感謝を述べこそすれ、責めることなど決してない」


澄火に聞いたところでは、シュライットは、自身よりも戦闘力では遥かに勝る相手と戦い、半死半生の重症を負いながらもなんとか撃破して生還したそうだ。


あの日の「忠誠」という言葉に嘘は無い。


「…………うん」


シュライエットはそっと俺の目元に手をやって視界を遮ると、唇に己のそれを重ねてきた。


「……私のファーストキス、だよ」


そう囁くと、シュライエットは俺の目元から手を離す。蕩けた目をしているシュライエットと目が合った。


「昨日ね、澄火がこっそり私のところに来て、メッセージを渡してくれたんだ」

「……澄火が?」


軟禁されているシュライエットにワープで会いに行くのは問題だと思って誓いの指輪を使うのを制限していたが、確かに澄火なら『怠惰』を駆使してこっそりと来ることが可能になるのか。


「澄火と、玲奈のね」

「いや、いい。見なくても内容はわかった」


昨日……つまり、玲奈との契約が成立したその翌日だ。


「そう。だったら……」


俺はシュライエットが最後まで言い終わらないうちに、少し強引に唇を奪う。


「…………優しくしてね」

「……ああ」


顔を紅色に染めるシュライエットを優しく押し倒した。

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