魔境攻略作戦“龍宮”

プロローグ

俺は日本ダンジョン探索者協会の東京支部本部にある、麻奈さんの部屋へ来ていた。


本体は婚約者である玲奈から話を通すべきかもしれないが、商人である玲奈を説得するにはある程度計画が実現可能なものである必要がある……そう思ったのだ。


「それで、魔境を攻略したいって?


麻奈さんは手元のパソコンの操作を一旦止めて、俺の要請に耳を傾けてくれる。


「はい。現状の戦力であれば、十分可能だと思いますが」

「うーん、そうだね……」


麻奈さんは歯切れの悪い返事を返してくる。


「……メールにも書いた通り、解放者の本拠点がある、というのは理由になりませんか?」

「解放者の本拠地、ね……」


麻奈さんは深く考え込むような仕草をする。


「君はどこでその情報を知ったのかしら?」

「エルの遺した情報です」

「…………そう」


麻奈さんは短い沈黙の後、そう呟いた。


「私も薄々そうじゃないかと思っていたわ。解放者の活動が活発になる時は、決まって龍宮でダンジョン災害が起こった後だし……それに、地上をいくら捜査しても見つからないから」

「……では」


結論を急ぐ俺を、麻奈さんは首を振って押し留める。


「ただ、証拠はないわね。だから、これを以て探索者を動かすことはできないわ」

「……そうですか」

「だから、何かしら大義を打ち立てる必要があるわね」


麻奈さんはそういうとワークステーションを操作し始める。


「やはりここは、国土の防衛を理由とした政治的圧力かしら?もしくは、小笠原諸島周辺百キロを常時封鎖していることへの経済界からの圧力……ふむ。色々なルートを辿れば、政財界を動かすことは可能ね」

「……動いてくれるんですか?」


てっきり、お流れになるパターンだと思ったが……


「まあね。……大切な人のために、やらなければならないんでしょう?」


麻奈さんの横顔は、1人の男を愛する女性の顔だった。隼人さんとの間に、深い絆と愛があることがわかる。


「……明日までには、計画の立案と各方面の折衝、探索者の募集までを済ませておくわ。作戦開始はおそらく一週間後ね」


一週間後……そんな早くに作戦開始できるのか。やはり、『支配者』の異名は伊達ではないようだ。


「ありがとうございます」


俺は深々と頭を下げる。


「いいのよ。それより、シュライエットに会っていきなさい。彼女もまた、あなたの大切な人なのだから」

「……はい」


俺はもう一度深々と頭を下げて、シュライエットが軟禁されている場所へと向かった。

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