第7話

次の扉を開けると、そこには下へと続く階段があった。降りていくと、見慣れた空間が俺を出迎える。


叡智の塔の最上階にある研究室。そして機器が開かれ、エルと共に幾度の夜を過ごした秘密の部屋が見える。

どうやら、塔が崩壊したとしても、ここだけは無事になるような機構になっていたようだ。


俺はぐるりと部屋を見渡す。


そして、エルがいつも使っていた研究テーブルに、見慣れない短剣が飾られているのを発見した。


エルは研究に熱中していると、誓いの指輪による転移で俺がこの部屋に入っていることに気づかないことが結構あった。

そんな時、俺は決まってソファに座ってエルが研究に励む姿をぼうっと眺めていたものだ。


そんなわけで、この研究室にあるものは大体把握している。もちろん、機能や用途などがわからないものも多々あるが。


短剣の柄は黄金色をしていて、デザインは俺と澄火が邪勇者の世界で回収し、エルに贈ったものと似ている。

鞘も同じく黄金色で、大きなブルーグリーンの宝石が中央に嵌り、また複雑な幾何学模様が刻まれている。


俺は短剣を台から拾い上げ、そっと鞘から引き抜く。


––––ふわり。


そんな風が吹いたかと思うと、俺の横をくるりと一回転しながら、エルの幻影が通り抜けていった。


「……エル!?」


幻影を追おうとしてなんとか踏みとどまり、短剣に意識を集中させる。


––––ある。


俺はそんな直感を得た。

確かに、この短剣の中には、エルの何かが眠っている。


「…………」


俺はしばらく短剣をじっと見つめたあと、部屋の探索に戻る。


研究室には、この短剣の他には特に変わったものはなさそうだ。

俺は次に、秘密の部屋の探索に映る。


俺はそこでも、見慣れないものを発見した。一つは地図……月と太陽がモチーフの二種類のマークが刻まれている地図。そしてもう一つは、五枚の資料だった。


早速、地図のマークをの位置を確認すると、月のマークはプロジェクト:####のピースがある位置を示していることに気がついた。


北海道、アラスカ、中国、このエルの島。そして残る一つは、オーストラリアにある魔境、“Hope”だ。

エルはもうすでにピースの場所を全て把握していたということか。


もう一つの太陽の印には、それぞれ詳細が小さな文字で書かれている。

それによると、グリーンランドにある“Ruin”に『黒子ビハインドザシーン』の本拠地が、そして日本の小笠原諸島にある“龍宮”に『解放者』の本拠地があり、そしてアメリカのネブラスカ州にある“Tear”には『涙の征服者』という組織の本拠地がある……らしい。


最後の組織は初めて知ったが、もしかしたら裏の世界でさえも名を隠すことができるほどの強力な組織なのかもしれない。


五枚の資料の方に視線を移すと、魔境についての情報が載っていた。

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