第4話 叡智の姫

「見る影もないな……」


俺は今、エルの島に、玲奈のプライベートジェットに乗ってやってきていた。


島の中央、少し盛り上がった部分に、エルの墓があった。


エルの墓は王族らしく、豪華な石造りで造られていた。

表面には、レイヴァント王国の言葉で「叡智の姫、エルヴィーラ・レイヴァント、ここに眠る」と刻まれていた。


「……叡智の姫……か」


俺はそれを見て、なんとも言えない気持ちになった。


彼女は一度、アーティファクトを使った結果国民を堕落に追い込んだ。過ちに気づいた彼女はアーティファクトを使うのをやめたが、今度は国を割ってしまった。

優れた叡智は、時に愚者の知恵となりうる……彼女が生前、何度か言っていたことだ。『叡智の塔』という名前は、そんな戒めを込めてつけた名前だとも言っていた。


俺は腕輪から日本で買ってきた桔梗の花を一本取り出して、墓の前に置く。


桔梗……花言葉は、「永遠の愛」。


俺は左手を目の前に持ってくる。そこには、エルとの誓いの証であるブルーグリーンの宝石が嵌る指輪があった。


玲奈と結婚することを決めたとはいえ……俺にはエル以上に誰かを愛することは絶対にできない。


それくらい、俺はエルに、愛という名の呪いで縛られている。


しばらくぼうっとエルの墓の前に立ったのち、俺は墓に背を向けて島を見て回る。


四つの塔を含め、この島にあった建物群は全て破壊されて瓦礫になってしまった。今はその瓦礫は片付けられて、島はまっさらな地面が顔を出している。


俺とエルが初めて出会った屋敷も、幾度もお茶会をした庭も、初めてキスをしたビーチも、毎夜を共に過ごした秘密の部屋も……全てが幻だったかのように、今はもうない。


俺はしゃがみ込んで、地面をそっと撫でる。ざらざらした、普通の土だ。エルのアーティファクトの痕跡すら残っていない。


……特に何もないか。


島を一周したあたりで、俺はそう結論づけようとして、ふと俺は羅針盤を取り出してみた。


プロジェクト:####のアーティファクトの位置を指し示す羅針盤。俺とエルを結びつけた羅針盤。

普段はぴくりとも動かない針が、なぜか今に限って動いていた。


俺は指し示す位置を把握するべく、島のありこちに移動して針の示す方向を確かめる。


そして、俺は気付いた。指し示す方向は……かつて叡智の塔があった、その場所だ。


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