第3話 神算鬼謀

「……ん。一体何がどこまで見えている?」


翔が玲奈が事前に手配していたプライベートジェットに乗るべく、これまた事前に手配していたリムジンに乗って空港へと向かっている最中。


澄火と玲奈が向かい合い、話を続けていた。


「何のことかしら?」

「エルがかつて言っていた。私と同等の頭脳を持つのは、同年代では玲奈の他に見たことがない……と」

「買いかぶりよ。私は彼女のように森羅万象にアクセスできるわけでもなければ、アーティファクトの構造を瞬時に解析することなんてできないわ……どれだけの訓練を積もうとも」

「…………」


澄火は無言で玲奈を見る。その目には、明らかに警戒の色があった。


「ならば、結婚を迫った理由は?」

「さっき言った通りよ」

「……真剣に答えて」

「…………」


玲奈はゆっくりと紅茶を飲む。


「さっきも言った通り、互いにメリットのある話だからよ。澄火にも決して悪い話じゃないと思うけど?」

「…………」


離れたくない。一生そばにいたい。だけど、翔の一番ではいたくない……そんなわがままな願いを持つ澄火にとっては、確かに悪い話ではない。


「最愛の人を失ったばかりの今の若くんが、結婚を引き受けるとは思えない。それこそ、感情を操作したりしなければ」

「私にははないわ」


ぞわりと澄火の腕に鳥肌が立つ。自身が持つ権能も、その効果も、翔しか知らないはずなのに……見通されているような気分になる。


澄火は目を細め、警戒をさらに強める。


「一つ言うのならば、エルと向き合う覚悟ができた……その時点で、もう彼は未来に向けて歩き出しているわ」

「だから、若くんは玲奈の気持ちに応えた……とでも?」

「いいえ。彼は決して私の気持ちには応えていない。言うなれば、ビジネスパートナーと言ったところかしらね」

「……それも、計算のうち?」


神算鬼謀の若き女傑は、ただ微笑みを以て澄火に応える。


澄火はため息をつくと、ソファから立ち上がり、部屋にある収納を開けた。


「……ん。好きなの持ってって」


収納の中には、大量のアクセサリー類がコレクションされている。


「……何かしら?これは」


中にはなかなか偏った趣味のものもあったため、玲奈が少し顔を引き攣らせてそれを見る。


「……ん。毒耐性を高めるものとか、つけている人も危機を知らせるものとか」

「……これを、私に?」

「……婚約者を失ったら、若くんが悲しむから」


そういうと、澄火はぷいっとそっぽを向いて、ソファのブランケットにくるまった。


まるで、いじけた子供のようであった。

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