第2話 取引

「この資料の対価が結婚……明らかに対価の方が重いな」


資料は情報であり、その価値は時間と共に減衰していく。しかし、結婚は一身専属の身分行為である以上、俺が生きている間はずっと関係性が保たれるものである。


とても対等とは言えない取引だ。


「……私と結婚することのメリットはわかるでしょう?」

「ああ。今までも、これまでも……いろんな支援をしてもらっている」

「私と結婚して手に入るのは、まずは情報よ。財閥の外にいるあなたには開示していない重要な情報が、沢山あるわ。例えば、黒子ビハインドザシーンや解放者がこれまで起こしたであろう事件のリスト、とかね」

「…………」

「他にも、来栖家の継嗣の婿としての社会的地位、私が個人的に今まで築いてきた人脈……そう言ったものをフルに活用することが可能になるわ」


なるほど。だがそうなると……


「逆に俺と結婚するメリットはなんだ?玲奈に……来栖財閥にとって、どんなメリットがある?」

「……『能力強奪』というユニークスキル、高いレベルと高いステータスによる、ダンジョン深層であっても通じる戦闘力。多様なアーティファクト。日本ダンジョン探索者協会の中で随一の権力者である『支配者』とのつながり。これだけのものを持っておいて、メリットがないとでも?」

「……つまり……来栖の家に、俺の遺伝子が欲しい、ということか?」


まだダンジョンが出来て5年やそこらであり、探索者の子供というのは少ない。

ステータス能力やユニークスキルが引き継がれるか、ひいては探索者の素質が引き継がれるかどうかははっきりとしていない。


「探索者の力の引き継ぎに関しては、十分に可能性はあると思っているわ。血統というのは、それだけ強いものよ。あなたには探索者の側室候補もいることだし、最低でも子供のうち一人は探索者になるでしょう」


来栖家は一夫多妻(女性の愛人がいる場合もあり)であるというのは、以前にも聞いた話だ。


「例え子供が探索者でなくとも、今列挙したあなたの能力だけで結婚の価値はあるわ」

「……そうか」


逆にこの結婚によって、俺にデメリットはあるか。結論から言えば、ない。

俺が来栖財閥と敵対するような行動を取ることはないだろうし、玲奈が探索者としての活動に口出ししてくることもほとんどないだろう。


玲奈のデメリットは、当然のごとく人数である……一夫多妻である以上、玲奈は俺と結婚してしまえば他の人間と“結婚”という手段を使って繋がりを作れなくなってしまう。

今年の一月、玲奈の誕生日に行われる結婚式において、俺以外の人間を隣に置くことはできなくなる。

最も、俺を介した婚姻関係を使って家同士のつながりを作ることは可能なので、あまりデメリットにならないかもしれないが。


総合すると、この取引には、互いのメリットが多くデメリットはほとんどない。

ならば、答えは決まった。


Deal取引成立。この資料の対価として、来栖玲奈……君と結婚しよう」

「そう。これからよろしくね、翔」

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