第三章 それでも

プロローグ

シャワーを浴びて、俺はリビングのソファでタブレットを開く。麻奈さんから3通のメールが届いていた。


1件目は、シュライエットの件……本来シュライエットの身柄は日本ダンジョン探索者協会の管理下にあり、その能力の使用には協会の正式な手続きを踏んだ上での許可がいる。


そんなわけで、本来はお咎めが入るところだが、今回は黒子ビハインドザシーンのメンバーを捕らえた実績から、一ヶ月のダンジョン協会内での謹慎ということで済むとのことだ。


二通目は、レイヴァント王国内で起こったテロ事件について。

正体不明のテロ集団がレイヴァント王国王宮へと侵入、第一王子をはじめとしたいわゆる“排除派”の一派を殺害した上で自爆。

あらかじめ仕掛けがしてあったのか、爆発が各所で次々と誘爆を起こし、結果として王宮が全焼するという被害が出た。

表向きには、黒子ビハインドザシーンの仕業だということになっている。

しかし麻奈さん曰く、現在行方不明となっているエルの部下が起こした事件の可能性が高いとのことだ。


俺はそれを読んで、重い気持ちになった。俺が守れなかったのは、エルだけではない……そのことに、気付かされたからだ。


三通目は、エルの葬儀について。エルはレイヴァント王国で国葬が行われ、墓は彼女の意向で、島にあるそうだ。

彼女の遺品については、その行方不明になっている。誓いの指輪すら、彼女はみにつけいなかったらしい。

どういう政治力学が働いたのか、ある程度まとまった金が俺から支払われることと引き換えに、島も含めて今は俺が全ての所有権を持っているらしい。

ちなみに、“ある程度”というのは、具体的には11ケタほどである。流石に結構な出費だが、惜しんでいてはいられない。尤も、もうレイヴァント王国へ支払い済みなので取り戻そうにも取り戻せないが。


俺はメール三通を熟読して、タブレットを置く。


今俺がすべきことは……エルとの思い出に、決着をつけることだ。


そうしなければ、俺は決して前へと進めない。

その一歩として……まずは、行方不明となっているエルの遺品を回収する必要がある。おそらくはアーティファクトも含むだろうそれを回収しなければ、大惨事が起こる可能性すらある。


手がかりはエルが住んでいたあの島にあるはず。墓参りも兼ねて、すぐにでも行くとするか。


……キンコーン。


そんな決意を固めた俺の耳に、来客を告げるチャイムの音が届いた。

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