エピローグ

「澄火……」

「……ん?」

「一体、何をした?」


互いを慰め合うような行為が終わった後の、少しまったりした時間。


俺はじっと澄火の目を見てそう問うた。

澄火はすいっと目を逸らして、俺の頭を撫でて誤魔化そうとしてくる。


「特になにもしてな……んあっ。分かった、言う、言うから……」


少し責め立てると、あっさりと澄火は陥落した。


「……ん。少し長い話になる」

「問題ない」


俺は澄火の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。


「……ん。若くんが『色欲』を持ってるように、私も大罪の権能を持ってる。名前は『怠惰』……人の欲望を縛り、解放する……というのが主な能力。私はこの能力を、物心ついた頃から持っていた」


澄火が物心つく頃ということは、世界にダンジョンが出現する前だ。

ひょっとしたら、ダンジョンが出現したのはあくまで世界の変化の最終フェーズであって、その前から変化は始まっていたのかもしれない。


「初めてこの能力を持った時、能力が暴走した結果、両親の欲望を縛った。その結果、彼らは死んだ」

「死……」


大罪の権能。当然、その名に恥じぬ力を持っているはず。それが牙を剥けば、2人の人間を死に追いやることぐらい容易……か。


「……ん。理由は色々ある。ともかくその時、私は1人になった。家も失った」

「…………どうやって生きてきたんだ?」

「……世界は意外と適当にできている。『怠惰』の力さえあれば、どうとでもなる」


澄火の言葉には、これまで実際になんとかしてきたという言葉の重みがあった。


「紫電は……『怠惰』の能力か?」

「……いや。それは私のユニークスキルで、『怠惰』とはまた別……なはず。多分」


なるほど。天は二物を与えずというのは間違いだったようだ。


「……ん。一緒にお風呂に入ったあから、若くんの私に向かう性欲は怠惰で縛ってた。さっきのは、それを全部解放しただけ」

「…………」


俺は澄火のその言葉に、なんと反応したらいいのかわからなかった。澄火の言説曰く、俺が今まで澄火に抱いた性欲が先程の異常に関与しているということだからだ。


「ん、ちなみに若くんに色欲を与えたのも、私。邪勇者の世界の邪神から権能を奪って、若くんに与えた」

「……ちなみに『色欲』の効果は?」

「……ん。私が把握している効果は、“愛憎”の操作、副次的効果として精力増加」

「…………」


異性と話題にするのが気まずくなる効果だ。

そういえば、エルが俺と体を重ねた後に調子が良くなるというようなことを言っていた。ひょっとしてあれは、精神的な話だけでなく、実際にステータスも増加していたのか?


「……ん。大丈夫」


エルのことを思い出して気分が落ち込みかけた俺を、澄火が頭を撫でて引き戻す。


「……そろそろ起きるか」

「……ん」


誰かに甘える時間は終わりだ。そろそろ、現実に立ち向かわなくてはならない。

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