第7話

俺は島に降り立ち、エルの遺体のそばへと向かう。


そっと冷たくなった彼女の体を抱き上げると、もはやなんの生命活動もしていないことが、ステータスで強化された俺の感覚がどこまでも克明に知らせてきた。


「……エル」


呼びかけても、エルは応えない。俺の目から涙が溢れて、ぽたぽたと雫となって落ちる。


感情が溢れ出て止まらない。


いつしかそれは力の奔流となり、周囲に氷と炎を撒き散らす。得たばかりのユニークスキルが、暴走を始めていた。


––––もうこのまま死んでしまおうか……


そんな思考が頭をよぎった時。


「権能発動––––『怠惰』」


よく知った声がどこかから響き、俺の意識は闇に落ちた。



––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「……ん」


目が覚めた。

ベッドの感触と、反響定位からわかる部屋の構造からして、最近使っていなかった、俺と澄火の寝室か。

澄火は俺を膝枕しているようだが、目を塞がれていて何も見えない。


「……澄火」

「……ん?」

「今は、いつだ?」


俺は直感から、すでに『炎刀』との戦いの日から何日か経っていることを察していた。


「……あれから一週間経った」

「一週間……」

「……ん。スキルが暴走して死にかけていたから。スキルが適応するまでにも、時間がかかった」

「……なるほど」


俺はそう言って、体を起こそうとする。


「……ん。どこへ行く?」

「決まってるだろ」

「……ん。それなら、私は止める必要がある。すでに、麻奈さんがエルの犯罪の依頼者を突き止めて、手段を講じている」

「……たとえそうだとしても、いかないと」


俺はそう言って無理やりに体を起こそうとするが、妙に体が重くて澄火に抵抗できない。


「……少し落ち着くべき」

「落ち着けるはずないだろ!」


何か行動しなければ、怒りと悲しみで狂ってしまう。


「何をしても彼女は戻らない。守れなかった事実も変わらない」


淡々とそう言う澄火。俺は反論することはできず、ただ項垂れるほかなかった。


「……今の若くんに必要なのは、赦しと慰め」


澄火はそういうと、ゆっくりと目を覆う手を外す。微かに目を腫らした澄火の目と、視線が交錯した。


「……ん、おいで」


澄火はこちらに向けて両手を広げる。俺は甘えるように、澄火を抱きしめて胸に顔を埋める。


「権能発動……『色欲』権能制限解除。『怠惰』権能効果解除」


澄火が何かつぶやくと、俺の中から熱い何かが湧いてくる。


「す……み、か?」


猛烈な熱に、うまく呂律が回らない。


「……ん。大丈夫。全部受け止めてあげる。だから、今だけは溺れよ?」


そういうと澄火は抵抗できない俺の唇を奪い、押し倒してきた。

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