第5話

俺の体の奥深くが熱くなっていくのを感じる。


『炎刀』が異変を感じたのか、突っ込んで攻撃を仕掛けてくるが、俺は折れた刀で以てそれをいなしていく。


最早打ち合うことは叶わないが、攻撃を捌くだけだったら十分にできる。

なんだったら、刀が短くなった分小回りが効くので、攻撃を捌くのはかえってやりやすくなった。


最も、刀同士が打ち合ったところから炎や氷で侵食するような攻撃を仕掛けてくるので、すぐに離れなければならない。


そうすると追撃を避けられないので、防戦一方だ。俺は可能な限りそちらへ割く意識のリソースを減らしていき、変わりに俺の底にある熱へと集中する。


ゆるゆると熱に手を伸ばすと、熱はどくりと波打って俺の全身に痺れるような……焦がれるような感覚が広がる。


「『能力奪取』」


今まで自発的に発動したことのなかったスキルを、俺は初めて発動した。

俺の手に、光さえも引き摺り込むブラックホールを思わせるような、漆黒のエネルギーが集まっていく。


怒りが、憎しみが、漆黒のエネルギーをどんどんと増幅させる。いつしか、黒い火花が漆黒のエネルギーから漏れ出していた。


「……なんだ、それは?」

「さあな」


答えてやる義務などない。

俺は『炎刀』を睨みつけて、加速装置・制限解除インフィニットアクセルを発動する。

『炎刀』に向かって突進し、左手に集中させたエネルギーを『炎刀』に向ける。


『炎刀』は攻撃を喰らってはまずいと思ったのか、加速した世界で左に回避行動を取る。


しかし、その動きでは止まらない。


俺は左手のエネルギーを右手に写し、漆黒のエネルギーを叩きつける。


「はあああああああああ!」


そのまま気迫と共に押し込んでいく。


ぱきりと何かが割れたような音がして、ぶわりと黒いエネルギーが俺と『炎刀』を包み込む。

そして、『炎刀』の体から青と赤のエネルギーが吹き出す。向かう先は当然、俺だ。


エネルギーはしばらく吹き出すと、ついでコアのようなものが『炎刀』の体から出現した。


『炎刀』は身動きができずに、ただ見ているほかない。


青と赤に彩られた宝石を掴み取ると、体からごっそりと自身の力が抜け落ちた感覚と共に、俺の中で新しい力が目覚めるのを感じる。


「……ぐっ」


猛烈な悪寒が俺を襲うが、俺の中に眠る種が花開くような感覚がして、それから守ってくれた。


「……もしや」


『炎刀』が何かに気づいたようなそぶりを見せるが、もう遅い。


俺は両手に刀を召喚する。


右手には、黒黒と燃える火を纏った緋い刀を。左手には、トゲのような氷を纏った青い刀を。

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