第3話

『炎刀』の能力は、「炎の刀を生成してその力を行使する」という話だった。


今、『炎刀』は右手にその炎の刀を持っているが、左手には氷の刀を持っている。


おそらく、黒子ビハインドザシーンとしての活動が露見しないように、能力の一部を隠して探索者として活動してきたのだろう。


『炎刀』は、小手調べとでも言わんばかりに右手に持つ刀で前方を素早く斬る。

俺は天輪で前方にバリアを張る。


不可視の斬撃がバリアに衝突し、紅の斬撃痕を刻む。炎の刀の能力の一端だろう。不可視の斬撃を飛ばす……なんとも面倒な能力だ。


俺は懐に飛びこみ、強引に至近距離での戦闘に持ち込む。


「強くなったな」

「…………」


俺は不意に、周囲の空気の温度が変化するのを感じる。不可視の斬撃の余韻で熱気を孕んだそれから、真冬の冷気に。


「凍れ」


『炎刀』が、美しい型で袈裟斬りを繰り出してくる。俺はエネルギーを込めた紅刀で受け止め、刀同士が接触した瞬間に内包する力を解放する。


流石にダンジョンアイテムではユニークスキルの生成物には対抗できないようで、炎を吹き出しているはずの俺の刀がピシピシと凍りついていく。


このままではマズイと思った俺は、一旦距離を取り、今度は空中戦に戦いの舞台を移そうとする。


かつてリリアが『堕天』との戦いでやっていたように、空に打ち上げ、あるいは誘導するような斬撃を次々と繰り出していく。


しかし、空中での戦いは俺に有利になると見たのか、『炎刀』はその場から全く動かずに攻撃を弾いてくる。


威力は落ちるものの、刀を振らなくても飛ぶ斬撃を放てるようで、次から次へと鬱陶しい攻撃が飛んでくる。


一撃目の裏により威力の低い二撃目を入れたり、攻撃の緩急をつけてくるが、リリアに鍛え上げられた俺の直感がその程度で崩れるはずもない。


全ての斬撃を避け、あるいは天輪で防ぎ、頑なにその場から動かずにいる『炎刀』を追い詰めていく。


先ほど仮面を割った場面の再現となるかとも思われたが、『炎刀』は上空に飛ぶことでそれを回避した。


……が、まさにそれが俺の狙いだ。


俺はさっさと勝負を決めるべく、聖痕エニグマを使用して加速装置・制限解除インフィニットアクセルを発動する。


感覚的に、ステータス面ではわずかに俺の方が優っている。ならば、ステータスを強引に押し付けてしまえば、必ず攻撃が通る。


俺はそう確信していたが、一つ重要な要素を見落としていた。しかしそれに気付かぬまま、技を繰り出す。


––––閃撃・乱

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