第2話 仮面の下

仮面の女は、禍々しい赤い刀と透き通るような青い刀を持っている。


エルの胸の傷から、下面の女が下手人だと言うことはすぐにわかった。


「……死ね」


俺は怒りのままに手に持った刀で斬りかかる。聖痕エニグマも使用した、俺の現時点での最高速度だ。

周囲の空気が俺の怒りを反映しているかのように軋む。


仮面の女は、俺のよく知っている型で攻撃をいなしてくる。俺は一瞬目を見張るも、怒りのままに攻撃を続けていく。


直感と高いステータスを駆使して、攻撃を入れていく。刀術だけでなく、拳や蹴りも交えながら攻撃を続けると、徐々に仮面の女が対応できるラインが下がっていく。


そして、俺の拳が仮面へと入った。かなり硬い感触がしたが、俺の全力の拳を弾けるものではない。


仮面は粉々に砕け散り、その下の素顔が露となった。


「……どうしてですか?咲良さん」


日本ダンジョン協会S級探索者『炎刀』。ユニークスキルによる生成物である刀を武器とする探索者。

一対一での戦闘能力が特に高く、数々の戦績を挙げてきた。オークションで司会役を務めるほどに、ダンジョン協会からの信頼も厚い。

そして、俺の刀術の師匠でもある。


そんな探索者が、黒子ビハインドザシーンの一員として、俺の前に姿を見せていた。


「まさか駆けつけてくるとはな……全ては秘密のうちに終わる予定だったのだが」


淡々とそう言う咲良さん。その様子は、数分前にエルの命を奪ったとは全く思えないほどだった。


「……なぜですか?」

「元々彼女は、その能力からいろんな勢力から危険視されていたんだ。アーティファクトによる経済破壊、それがいったいどれだけの被害を生むか、想像できないわけではないだろう?」

「…………」

「そこに、“龍宮”での活躍だ。彼女はそこで、一国の軍事力にも値する戦闘力を示した……もはや一刻の猶予もなく、消さなければならない。そう裏の組織が手を組んだとしても、なんらおかしくはあるまい?」


つまり、さまざまな組織が手を組み、黒子ビハインドザシーンを動かしてエルの暗殺を実行したと言うわけか。

俺を足止めしてきた八人の黒服や、この結界を構築したやつらの中にも、ひょっとしたら別の組織の人間が混ざっているのかもしれない。


「それだけか?」

「……うん?」


きょとんとした顔になる『炎刀』。


「たったそれだけの理由で、俺からエルを奪ったのか?」


俺は刀にエネルギーを込める。俺の怒りを反映してか、禍々しいオーラが刀から吹き出す。

『炎刀』は戦闘が避けられないと思ってか、あるいはここで俺を始末するつもりなのか、二刀を構える。


「……死ね」


俺は呪詛を吐き、『炎刀』へと切り掛かった。



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