第7話 雷帝招来

「……ん、発見」


と、澄火。護衛艦“万葉”からの通信の通りに進むと、モンスターの一群に遭遇した。少し龍宮に近づいたからか、心なしさっき遭遇したモンスターより強力だ。


「澄火」

「ん!」


澄火は腕輪から護符のような物を取り出す。


そして、しゅばばばば!と目にも留まらぬ速さで手印を組む。ステータス能力が反映されているため、一般人にはほとんど見えないであろう速さだ。


護符を紫電から発する熱でぼっともえあがらせ、澄火はこう呟いた。


「雷帝招来」


その瞬間、モンスターの一群の上から紫電が降り注ぐ。


「天輪!」


俺は嫌な予感がして、アーティファクト『天輪』を起動し、空気の振動を拒否するバリアを展開する。


案の定、紫電が着弾した地点から水面に大きな波が広がっていった。おそらく、外では筆舌に尽くし難いほどの轟音が鳴り響いていることだろう。


かなりの数のモンスターが、澄火の電撃によって撃ち落とされていく。あとは、俺が残ったモンスターを殲滅するだけだ。


––––加速装置・制限解除インフィニットアクセル


俺はシュライエットを放し、自身の持てる最高速度で動き、モンスターを斬っていく。


「ひゃっ」


そして、指輪でシュライエットのそばに戻り、再びお姫様抱っこをする。

予告のない衝撃に、シュライエットが微かな悲鳴をあげる。


「……噂には聞いてたけど、すごいね、旦那様。私と戦った時とは桁違いの速さだ」

「ああ、うん……」


あの戦いは、俺が死を最も実感した戦いの一つである……正直言うと、少しトラウマである。

腹に穴を開けられたのは、かなり怖かった。


しかし、シュライエットの中ではあの戦いはどこか特別なものになっているみたいなので、俺はそれを口に出すことはないが。


「ステータスによるゴリ押しだからな。あまり誇れるものではないけど」


筋力と体力はもちろんだが、耐久のステータスがあってこそできる芸当だ。

澄火もユニークスキルを使えば俺の加速装置・制限解除インフィニットアクセル同じだけの速さで動けるが、耐久は上がらないため、長時間の使用は不可能だ。


「それも旦那様の力だよ」

「ありがとうな」

「……ん。どうだった?」


と、先ほど使った『雷帝招来』の後始末が終わった澄火がこちらへ寄ってきた。


「さすがだな。宿命の領域フェイタル・テリトリーで紫電を空に経由させたのか?」

「ん」


ちなみに、先程の詠唱と護符には特になんの意味もない。

澄火の持つユニークスキルは……というかほとんどのスキルは、護符を燃やそうが手印を切ろうが性能は全く変わらない。ただの澄火の趣味だ。

強いて言えば、敵の目を逸らすくらいの効果はある……かもしれないが。


『……こちら特殊部隊所属“万葉”。貴殿より10時の方向にモンスターの反応あり。至急対応を求める』


と、通信が入った。しばらくは、通信の通りに対処する時間が続きそうだ。

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