第5話 装備点検

「あら、翔。どうされたんですの?」

「龍宮のモンスターが溢れかけているらしくてな。急遽向かうことになった」

「……なるほど」


エルヴィーラ王女のそばにワープすると、そこは叡智の塔の最上階にある研究室だった。


どうやら、今日も何かの研究をしていたようだ。


エルヴィーラ王女は立ち上がると、ぎゅっと抱きしめてくる。


「ふふふ、潮の香りがしますわ」

「わかるものか?」

「ええ。愛する人のことですから」


エルはそう言うと、俺の手からひょいっと腕輪を取る。


「少し待ってくださいまし」


エルは澄火の腕輪の中に入っている戦闘服や朧雪といった装備品を取り出し、一つ一つチェックしていく。

手持ち無沙汰になった俺は、紅刀を腕輪から取り出して鞘から10cmほどを引き抜く。


思えばこの刀とも、もう三ヶ月半ほどの付き合いである。その間、結構な死線を共に潜り抜けてきた。


エルにメンテナンスをしてもらってはいるもののの、いずれこの刀では俺の戦闘について来れなくなる時が来るだろう。

微かにだが、切れ味も悪くなってきているように感じるし、その日は意外と早いかもしれない。


新しく刀を見つけるか……あるいはいっそのこと、エルに作ってもらうか。手段はともかくとして、そのうちに見つけなければならないだろう。


「終わりましたわ」


澄火の装備を全てチェックし終わったらしいエルはそういうと、俺が座るソファの横に腰を下ろした。


俺は紅刀を鞘に納め、腕輪へと収納する。


俺の装備は毎夜エルがチェックしてくれているので、特にチェックする必要はない。


俺はエルに手を重ね、きゅっと上からエルの手を握る。


「必ず帰ってきてくださいね?」


エルはそう言って柔らかに微笑む。俺はそれに言葉ではなく、口付けを以て応える。

キスというのは、不思議な物だ。ただ唇が触れ合っているだけなのに、互いの心の距離がほとんどゼロになっているような感覚に陥る。


「ふふふ。いってらっしゃい、旦那様」

「行ってくる、エル」


俺は澄火の腕輪を持っていることを確認して

、澄火の元へとワープした。


潮風が俺を撫でる。澄火達はすでに甲板で待機していた。


上の艦橋では、艦長が難しい顔をして遠くを見つめている。

高性能20ミリ機関砲やVLS装置一式などの武装はあるものの、魔境のモンスターを相手にした場合、この艦ではひとたまりもないだろう。


俺が守るのは、澄火とシュライエットだけではない……自衛隊や、東京に住む人たちも守らなければならない。


澄火に腕輪を渡すと、俺と同じ戦闘服へと着替える。

エルに腕輪を調整されたことで、着替えを切り替えることができるようになったのだ。


「……ん。いつでも行ける」

「よし。バクは俺が運ぶ。澄火は先行してくれ」

「ん。了解」


ステータスの差とスキルの違いがあるので、俺たちにバクが追いつくのは難しい。

俺はバクをお姫様抱っこして、ニャルトラ・ステップで龍宮へ向けて空を一気に翔けていく。

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