第3話 ダンジョン深層

目についた全てのモンスターを紫電で吹き飛ばす澄火を追うようにして、俺はダンジョン内を進んでいく。


澄火が逆手に持っている“霞雪”によってうみだされた短剣、そしてスーツについている“宿命の領域フェイタル・テリトリー”によって澄火の周囲に紫電の渦のようなものが生み出され、敵を逃すことなく消滅させていっている。


アム・レアーを打ち込む隙間すらないので、俺は何もできずに追いかけるしかない。


ボスを倒した後のドロップアイテムが出現するまでのディレイを除けばほぼ休みなく俺たちは駆け抜けて、あっという間に100層を突破した。


大抵のダンジョンでは、100層突破というのは一種の節目である。

なぜなら、そこから先は難易度が跳ね上がるからだ。S級探索者……旧序列入り探索者の中では、“深層”などと呼ばれているそうだ。


ちなみに、ダンジョンが発生してから今に至るまで、ダンジョンは最奥まで探索されたことが一度もない。

レイジダンジョンというアメリカのダンジョンが、“tonic”というパーティによって1420階層まで探索されたことがある。

それが現時点での最高記録だが、tonicはそこでまだ先があることを確認して引き返している。

パーティに死者が出た上に、ポーションや食料などが枯渇したらしい。なんとか戦闘中に帰りの水晶で脱出したが、返ってきた時には十人いたメンバーが半分になっていたんだとか……ダンジョンはまだいけると言う場所で引き返すべしという教訓と共に語られる偉大な記録である。


「ん。なんかいいのあった?」


と、これまで宝箱や魔石の回収を全て俺に任せ、先に突き進んでいった澄火がそう言った。


「いや、特には。ポーションとか武器とか……まあ既出品が多いな」

「……ん。準備運動は終了。本番はここから」

「だな」


俺たちは先ほどより少しペースを緩めて100階層を進む。


「澄火!」


曲がり角を曲がった先に、16体のモンスターが待ち構えていた。トカゲのような顔をしたモンスター……いわゆるリザードマンだ。


リザードマンは俺たちをみた瞬間に常人では目にとらえることすらできないスピードで攻撃を仕掛けてくる。


しかし、今の俺たちにそんな攻撃が効くわけながない。

キン……という刀を鞘に収める音が響くと同時に、リザードマン全ての首がどさりと落ちた。


「……ん。さすが若くん」


リザードマンの動きよりも遥かに速いスピードで動き、首を斬ったのだ。

比較的柔らかい筋繊維にすら、切断面にほとんど乱れがない。我ながら、刀術はほとんど達人の域に達していると思う。


「今日は200階層まで行ったら引き返そう」

「……ん!」

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